インドってどんな所?
インドに長期滞在したそまちひろさんが、現地の様子を紹介します。

リタイアリングルームにまつわる小話

2015/07/30

インドの大きな駅には「リタイアリングルーム」と呼ばれる簡易宿泊施設があります。早朝や深夜発の列車に乗る場合、暗い街を移動したくなかったら、リタイアリングルームに泊まってしまうのが安全策。リタイアリングルームは大きい部屋にベッドがずらっと並んでいるだけ、というものが多く、料金は駅によって違いますがかなり安いです。そのためインド人旅行者に人気で、行ってみたら満杯で泊まれなかった、ということも。

ムンバイのメインターミナル、CST駅でリタイアリングルームに泊まろうとしたときのこと。夜遅くにバラナシからムンバイに着き、次の日早朝に列車でアウランガーバードに移動、というスケジュールでした。そこでCST駅内にあるリタイアリングルームを探し回ったのですが、何せ巨大な駅のため迷うこと迷うこと。何人ものインド人に尋ね回り、やっと駅舎の2階にリタイアリングルームを発見。

1泊したい旨を伝えると、駅長に許可をとってこい、との返答。散々歩き回って疲れてるのに、なんて官僚主義的な…とうんざりしながら、駅長室に行きました。ムンバイCST駅の駅長さんというと、結構偉い人なんだと思いますが、小さな電話ボックスみたいなオフィスにひとりで座っていて、ちょっと拍子抜け。

リタイアリングルームに泊まりたいと言うと、「女子部屋は今日は満室だから、男子部屋になってもいいか」と聞かれました。それは微妙…と思いましたが、真夜中にムンバイの町をうろつくのは避けたい。ちょっと迷ってOKと言うと、駅長さんが電話をかけ始めました。受話器を置いたあと、ニカっと満面の笑みを浮かべて「ノーチャンス」。そんなに嬉しそうな顔しなくてもいいのに。

その後、教えられた女性専用の待合室に向かいました。固いスチール製の椅子が置いてあるだけの待合室では、床に敷物を敷いて、荷物を枕にして寝ているインド人女性がずらり。その異様な雰囲気にびびってしまいましたが、背に腹は代えられないと、わたしも布を引いて寝転がりました。

夜中にふと目がさめて隣を見ると、制服姿の女性警官が寝ていました。外国人ということで、安全を気遣ってくれたんでしょうか。ひとつ何かが上手く行かないと、次の選択肢がないのがインド。その場合は腹をくくって、自分の国では想像もつかないようなことをしないといけません。でもそれならそれで、結構助けてくれる人がいるのも、またインドなのです。

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ライタープロフィール

そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。