インドってどんな所?
インドに長期滞在したそまちひろさんが、現地の様子を紹介します。

思い出深い土地、インドのブッダガヤ

2015/04/23

3ヶ月の東南アジア・インド旅行を経て、わたしはそろそろ日本に帰らなければいけない時期に来ていました。早く仕事を見つけなければ、それに親や友達にも3ヶ月だけの旅行と言ってあるし……。でも心の中には、もっといろいろな場所を見て、いろんな人に出会いたい! という葛藤がありました。葛藤しながらも、バラナシの旅行会社で、9月中旬のデリー発日本行きのチケットを購入。バラナシで帰国までの日々を過ごしていました。

ある日リシケシで知り合った友達の一人がバラナシに来るというので、喜んで合流。彼が次はブッダガヤに行くというので、バラナシに少し飽きていたわたしも一緒に行ってみることに。

ブッダガヤはブッダが悟りを開いた土地として有名です。ブッダが座って瞑想していた菩提樹は、5世紀に仏教が弾圧された際に切られてしまいました。ただ、オリジナルからの挿し木の菩提樹が、大菩提寺というお寺の境内で見られます。菩提樹の下は、強い日差しが作る濃い影になっていて、そこでたくさんの人が小さな声でお経を唱えたり、瞑想したりしていました。その中に、ひとりの若い日本人女性の姿がありました。

あとで町でみかけたときに声をかけてみると、彼女は日本で尼さんになる決意をし、最後の長期旅行としてインドに来たとのこと。彼女といろいろと話すうちに、ポロリと「日本に帰ろうか、旅を続けようか、迷っている。帰国チケットも買ってしまったのに」と本心が洩れました。すると彼女は、「まだ旅がしたいと思うなら、した方がいいよ。でないとあとで後悔するし、何かを強くしたいと思う気持ちは、たいてい正しい方向に導いてくれるから」と言ってくれました。

それでもまだ決めかねていたわたしは、一緒にブッダガヤに来た友人にも相談してみました。すると彼は、「僕とチェスの勝負をして、僕が勝ったら旅を続ける、君が勝ったら日本に帰る、というのはどう?」と提案してきました。突拍子もない提案でしたが、なるようになれ、という気持ちだったので、彼とチェスの勝負をすることに。

わたしたちは大菩提寺の菩提樹の下に行き、祈る人々の隣でチェスの勝負をしました。見物人が結構集まってしまい、緊張したわたしはうっかりミスで惨敗。このことをあとで友達に話したら、「旅行を続けたかったから、わざと負けたんじゃない?」とからかわれましたが、真剣勝負をしたつもりです。

結果、旅行を続けることになり、そのときチェスをした友人は、現在のパートナーです。ブッダがめぐり合わせてくれた不思議な縁、と言うのは大げさかもしれませんが、ブッダガヤは間違いなくインドで最も思い出深い土地のひとつです。

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ライタープロフィール

そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。