インドってどんな所?
インドに長期滞在したそまちひろさんが、現地の様子を紹介します。

インド・コルカタで感じる、大都会の優しさ

2015/06/03

植民地時代に建てられた情緒ある建物

植民地時代に建てられた情緒ある建物

4回目のインド旅行で、初めて東インドの大都会コルカタに立ち寄りました。インドの大都会というと、人とスモッグが多くて、汚いし物価は高いし、とできるだけ避けるのが常だったからです。事実デリーやムンバイはかなり苦手で、フライトが到着したらその日のうちに去るのが普通です。

ただ、コルカタはちょっと様子の違う大都会でした。何となく、古きよきインドの雰囲気を残しているのです。半ば崩れかけのような、植民地時代に建てられた情緒ある建物が並び、人力車がまだ走っています。人力車は20年以上前にライセンスの発行が停止されたので、現在残っている引き手が引退してしまうと、もう消滅する運命にあるとのこと。

植民地時代が古きよきインドだったのかと言われるとそんなことはないのですが、おそらく20世紀初頭に活躍したコルカタ出身の文豪、ルビンドラナス・タゴールの小説のイメージが強いのだと思います。タゴールはコルカタを舞台にたくさんの小説を書いていて、その中のひとつに今でも思い出すと泣いてしまいそうになる一篇があります。

それは「カブールから来たくだもの売り」という短編。タゴール自身が住む家の界隈に、いつも果物を売りにくるカブール出身の行商人がいました。アフガニスタンに妻と娘を残してインドへ出稼ぎに来ている彼は、タゴールの幼い娘をいつもかわいがってくれていました。ある日、ささいなことで客と言い争いになった行商人は、意図せず客を傷つけてしまいます。行商人が牢屋から出所してきたとき、タゴールの娘は結婚式を数日後に控えていました。昔を懐かしみ、娘に会いに来た行商人でしたが、娘は幼い頃の記憶もあまりなく、恥ずかしがって行商人と話そうとしません。悲しそうな様子で帰った行商人を見たタゴールは、娘の結婚式の費用の一部から、カブールの行商人に帰国費用を渡そうと決意するのでした。

この話が事実に基づいたものかどうかは分かりませんが、20世紀初頭のベンガル人コミュニティの懐の深さを象徴しているようで、それがそのまま「優しい大都会」コルカタのイメージに繋がっています。

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ライタープロフィール

そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。