図書館司書の仕事体験記
40歳過ぎて資格を取得し図書館司書で仕事をした体験記を紹介します。

迷惑利用者への対応

2011/11/08

図書館というのは、その町の縮図なのかもしれません。町中のあらゆる集落から大勢の利用者が集まってくるからです。愛想の良い人がいるかと思えば、無愛想で言葉少ない人もいます。お喋りでカウンターから離れない人がいるかと思えば、持ってきた本をカウンターに放り投げる人もいます。

そんな利用者の中には、貸出処理をしないで、黙って本や雑誌を持って帰る人がいます。それでも返却してくれればまだいいのですが、そのまま自分の家に置いたままなのでした。

ある雑誌がよく紛失すると言い出したのは、雑誌担当の司書でした。1月号から6月号の半年のあいだに、すでに3冊の月刊誌がなくなっているというのでした。

そのころ図書館ではまだ、防犯カメラを設置していませんでした。高価格でもあり、また住民との信頼関係を考えると設置しないほうが良いと考えていたからでした。

しかしあまりにも頻繁に紛失する雑誌のことや、カメラ自体が安価になったことなどから防犯カメラを設置しました。そしてカメラを取り付けた壁に、防犯カメラ設置と大きく表示をしました。それで紛失は無くなるだろうと考えたからでした。

しかし雑誌は、その後も毎月の様になくなり続けました。そしてその雑誌を手に持っているところがカメラに映っていた人は、1日に何十人といました。その人たちのうちの誰が、貸出処理をしないで雑誌を家に持って帰るのか、結局のところは分からないままでした。

防犯ゲートが必要だという意見も出ました。しかしあまり商業的なことはしたくないという意見も多くあり、皆で考えた結果、紛失が多い雑誌ばかりを集めてカウンターの前に置くことにしました。

これまでに紛失したことのある雑誌10誌を、ひとまとめにして雑誌棚に並べました。そしてその雑誌棚を、司書が常に座っているカウンターの目の前に、置いたのでした。

それから3ヵ月、毎月のように紛失していた雑誌は、一度も無くなりませんでした。その雑誌を読みたいがどこを探してもないという苦情も、一件も無くなりました。姿なき迷惑利用者への対応は、ぴたりと当たったのでした。

関連記事
ライタープロフィール

キイチロウ/男性/50代/福井県在住/ごく普通の仕事をしていて、ごく普通の考え方をする、ごく普通の趣味を持った、ごく普通の外見の人間です。ただ他の人よりも少しだけ、人間ウォッチングに優れていると自分では思っています。