図書館司書の仕事体験記
40歳過ぎて資格を取得し図書館司書で仕事をした体験記を紹介します。

実際に働いてみて大変だったこと

2011/11/02

図書館が開館するのは午前9時でした。開館時間ぴったりに、私は自動ドアの鍵を開けました。そこには大抵、十数人の利用者が待っていました。私がドアを開けると、その中の数人が争うようにして図書館の中に走り込みました。

その光景は毎朝同じで、数人の利用者は、自分の見たい新聞を確保するために走るのでした。勿論、図書館ですから、新聞は全国紙と地方紙あわせて15紙ありありました。それは図書館として決して少ない数ではなく、数人の利用者が毎日何のために走るのか、私は疑問に思っていました。

仮に早く見たい記事があったとしても、そんなに毎日ある筈はありません。しかしその数人が争って取り合うのですから、きっと自宅では見られない新聞なのだろうと私は思っていました。

あるとき、その中の2人の利用者が、新聞の奪い合いを始めました。言い争いが始まり、喧嘩に発展して、近くに座っていたほかの利用者がカウンターに苦情をいいにきたのです。

すぐさま私は2人の所へ行き、なぜそうなったのかを訊ねました。しかしどちらも自分の言い分ばかりを通そうとして、相手の言葉には全く耳を貸そうとしませんでした。

見ると、取り合っていたのは、地元の地方紙でした。経済新聞でもなく、全国紙でもありませんでした。その新聞は、この地域では大抵どこの家にでもある筈でした。普及率80パーセントといわれている、県内最大の地元新聞でした。

私は内心腹立たしく思ったのですが、そんなことも言えずに、大きな声を出すとほかの人が迷惑すると2人をなだめました。しかしその後も新聞の奪い合いは、毎日続きました。

そして数日後の司書会議の中で、私はその2人が昔から仲が悪いことを知りました。けれど仲が悪いといってもそのまま放っておく訳にもいかず、結局、同じ新聞を2紙購入することになりました。すると今度は、その2人は、新聞をめくる音がうるさいとか、いつまでも同じ新聞を一人占めしていると、喧嘩を始めました。

公立図書館である以上、入館規制というものは、ありません。人間であれば、よほどの理由がない限り、誰でも利用することができます。そんな大きなコミュニティーの中にいる、個性的でこだわりを持った人たちへの対応が、実際に働いてみて一番大変でした。

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ライタープロフィール

キイチロウ/男性/50代/福井県在住/ごく普通の仕事をしていて、ごく普通の考え方をする、ごく普通の趣味を持った、ごく普通の外見の人間です。ただ他の人よりも少しだけ、人間ウォッチングに優れていると自分では思っています。