ホテルのロビーピアニスト体験記
プロミュージシャンへの道のり、ピアノ弾き語りの魅力、ホテルのロビーピアニストとは、東南アジアへ演奏旅行について紹介します。

東南アジアへ演奏旅行 台湾編

2012/12/19

私が台湾でピアノの弾き語りをしていたのは、台北駅のメインストリートにある国際ホテルです。台北駅の周囲には観光客用のホテルやデパート、そして語学学校が建ち並んでいます。

私が一番驚いたのは、語学学校の多さと日本の文化が街に溢れていた事です。英美、米美、日美を書かれているのが語学学校で、中でも日本語の日美が圧倒的に多いのです。街のメインストリートや裏路地には、日本の雑誌がそのまま日本語で売られています。ファッションやコスメの雑誌、芸能雑誌、週刊誌、コミック誌も全て日本語です。音楽も全体の80パーセントが日本のCDやビデオでした。明らかにコピーと判る物もありますが、演歌からポップス、そしてアイドルまで揃っています。台湾は欧米の文化ではなく、日本の文化に目を向けている国だったのです。

台湾のホテルでは、夕方のディナータイムにラウンジ演奏をして、専属歌手の伴奏を行います。私は台湾語をまったく話せませんが、何と!漢字や四文字熟語で意味が通じてしまいます。メモ用紙とボールペンは、私の必須アイテムになりました。

台湾は韓国のように、日本の音楽への規制がまったくありません。ホテルの専属歌手は「謝美君」と紙に書いてくれましたが、発音が難しく「シャ」だけにしました。打ち合わせの時に、日本から持ってきたプロ用の歌謡曲&ポップス本、洋版ポップス本、ラテン&ボサノバ本、スタンダードジャズ本を見せました。謝は、目が飛び出るんじゃないかと思うほど、食い入るように本を見つめています。「この本から、私の好きな歌をコピーさせてください」と言います。

「なるほど、コピーした方が探しやすいよねえ・OK」と言ったら歌本を全部持って出て行きます。1時間しても帰ってきません、2時間しても帰ってきません。4時間後に帰ってきたら、全ての歌本を丸ごとコピーしただけでなく、製本までしてありました。台湾では入手する事ができないそうで、かなりの貴重品だと目を輝かせています。

謝はちょっと中国語の訛りがありますけど、日本語もラテンも英語もしっかりしています。台湾の歌手は、国家資格を取得しないと仕事が出来ないそうです。

まったく日本と変わりないピアノの仕事で、ストレスは一切ありませんでした。ただ、気晴らしに行く遊び場が少ないのです。謝に話をすると「私が歌っているクラブにくる?」と言います。「え?ホテルの演奏が11時に終わるのに、その後で歌ってるの?」と聞くと「台湾のクラブは10時から開店します。日本人のお客さんが殆どです」と言います。

謝に案内してもらうと、台北駅の裏側は繁華街になっていて東京、赤坂、安曇野、優子など、日本語の看板も目立ちます。謝が掛け持ちしているクラブは「雅」と言う名前で、奥のステージにピアノがありました。ピアノの上に置いてある歌本を見ると、音楽雑誌のオマケに付いている付録の歌本でした。

謝が「今日はピアノの先生が休みだから、替わりに弾いてくれる?」と言います。仕方ないので「1時間だけでよければ弾いても良いよ」と言ってしまいました。私がピアノに座ると謝は四角いケースにお金を入れています。なんと!日本の1万円札を3枚と5千円札2枚、そして千円札1枚を入れているのです。「何してるの?」と聞いたら「お金を入れておくと、お客さんがチップを置いていくでしょう」と言います。なるほど見せ金なんですねえ・・クラブではギャラが無く、チップが収入になるそうです。

謝はお客さんの扱い方が上手です。日本語のデュエット曲をリクエストさせて、ステージに引っ張り上げます。1時間の演奏が終わると、四角いチップのケースは日本のお金で一杯になっていました。謝はチップの半分を私に渡そうとしましたが、私は受け取りませんでした。何故ならば!私を見つめる謝の目が微妙に変化していたからです。

注意一秒怪我一生!転ばぬ先の杖とも申します。

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ライタープロフィール

Jack天野/男性/年齢:50代/セブ島在住/13歳より横須賀の将校クラブでドラマーデビュー、20歳でハモンドオルガン奏者、その後ピアノの弾き語りとしてファイアットリージェンシーと契約し東南アジア各国のホテルロービーピアニストを務めました。ちょっとマイナーな部分も含めて、楽しい記事を書きたいと思います。宜しくお願いします。