- 介護の仕事体験記
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実際に働いてみて良かったこと
2011/12/12
認知症の症状は様々でした。アルツハイマー型で進行の早いものもあれば、ほんの軽い症状のままの人もいました。84歳の男性Kさんは、とても穏やかな人でした。男性でありながら、炊事、洗濯、針仕事まで何でもこなしました。認知症など全く関係ないように思えたのに、入居した2年前は、階段の手すりを尻で滑り降りていたということでした。
86歳の女性Oさんは、元学校の先生でした。人の名前や顔はすぐ忘れてしまうのに、難しいことだけはよく知っていました。そして97歳の女性Sさんは、親分肌でした。常に車椅子が必要で、1人では何もできませんでしたが、口だけは達者でした。
この3人は気が合うのか、いつも夜遅くまで一緒にホールでテレビを見ていました。私は夜勤で、午後5時から明くる日の朝9時までの勤務でした。
男性のKさんは、自分が84歳でありながら、OさんとSさんが自分より年上だからか、いつも敬語を使いました。OさんとSさんが、Kさんに対して気楽に喋ったので、余計にKさんの敬語が目立ちました。それは少し滑稽であり、とても微笑ましい光景でもありました。
夕食後、ほかの6人が皆居室へ入り、いつもの3人だけがホールに残りました。私は3人にお茶を出し、自分はコーヒーを飲みながら、4人でテーブルを囲みました。
早くに両親を亡くした私には、この年齢の知り合いはいませんでした。80代90代の人が何を考え、何を思っているのか、皆目見当がつきませんでした。だから尚更だったのかもしれません。私は一切の書類を後回しにして、話を聞くことだけに集中しました。そして時には私も話しに加わり、昔話に花が咲きました。
夜勤は週に2回ほどありました。その私の夜勤の日を、この3人はちゃんと覚えていてくれました。夕食が終わり、食器洗いを済ませて、皆でその食器を拭いていると、必ず3人が私に目配せをしてきました。
それは今日も皆でまた話をしようという合図でした。私はそう合図されることが、嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。仕事に対する意欲がいっそう湧いてくるのでした。
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キイチロウ/男性/50代/福井県在住/ごく普通の仕事をしていて、ごく普通の考え方をする、ごく普通の趣味を持った、ごく普通の外見の人間です。ただ他の人よりも少しだけ、人間ウォッチングに優れていると自分では思っています。