インドってどんな所?
インドに長期滞在したそまちひろさんが、現地の様子を紹介します。

バラナシの食堂で親子丼を作った顛末

2015/07/28

海外を長いこと旅行していると、どうしても日本食が恋しくなりますよね。日本で食べるような「本物の味」なんて、インドの安食堂では望むべくもないのを知りながら、「Japanese food」の文字を見かけて、ふらふら入店してしまったことが何回もあります。

その日、バラナシのメインストリート、ベンガリー・トラの食堂に入ったのも、メニューに親子丼があったからでした。でも注文して出てきた親子丼は、卵と鶏肉をぐしゃぐしゃに混ぜ合わせた、汁っぽいおじやのようなシロモノ。ふわふわ卵の親子丼を想像していたわたしは、あまりの落胆に店員に「こんなのは親子丼じゃない」と文句を言ってしまいました。

すると店のオーナーが出てきて、「じゃあ本物の親子丼を作ってみせてよ」と言い出しました。今から厨房使っていいから、と。インドの食堂で料理をするなんてなかなか面白い体験だと思い、ふたつ返事で引き受けました。

ものすごい乱雑さを想像しながら入った厨房は、意外にこざっぱりと片付いていました。調理スタッフが固唾を呑んで見守る中、鶏肉を切り分け、タマネギをスライスし、しょうゆと砂糖で即席の調理出汁を作ります。先に鶏肉、次にタマネギ、出汁を入れて食材に火が通ったら、卵を流し入れて…と手順を説明しながら作りました。完成した親子丼は、手前ミソながらなかなかの見栄え。

「これが親子丼だ!」と店長に言うと、「いや、でもそれ俺たちが出してるのと一緒だろ」とぬかします。いや〜〜〜、全く別物だろ! 呆れてものも言えませんでした。インド人は変なところでプライドが高く、自分の非を認めたがらないことがあるのでやっかいです。

しかも、「俺たちベジタリアンだからさあ、鶏肉食べられないんだよね。もったいないから食べてよ」と言われ、彼らのなんちゃって親子丼を食べてお腹一杯だったわたしは困ってしまいました。するとタイミングよく、ガタイのいい韓国人男子ふたりが入店してきたので、彼らに食べてもらうことに。「マシソヨ!(おいしい)」ととても喜んでくれました。どんな状況でも、自分の料理を美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものですね。ということで、結果オーライです。

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ライタープロフィール

そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。