トロピカル・タイム〜南太平洋航海記〜
ニュージーランドからヨットで南太平洋をクルージング。4年間の南太平洋航海記

赤道を越えて

2010/12/06

2005年 11月
もぅここまで来たら北上する決意も固まり、憧れの石垣島に向けて帆をあげました。憧れの赤道を通り越して、ついに久々の北半球に突入しました。不思議なことに、赤道を越えたとたん、海の色が濃く黒くなりました。それまでの神秘的な濃い群青色が灰色のようになったのです。さらに、波が出てくるようにもなりました。

まるで北半球の生活の厳しさを物語っているようだな・・・などと思いながら、沖縄に。のつもりだったのですが、強風と潮の流れに押されて、西に進むことができないのです。目指す沖縄は北西方向、しかし、船は東に押されてしまうのです。

天気予報に耳を傾けていた夫は、「台風が来てるみたいだよ」と。そのため、沖縄は諦めて北東方向に位置するグアムに進路を進めることになりました。

赤道を越えてからというもの、日に日に寒くなり、太陽の力が弱っていくのを感じました。ようやくグアムに到着したものの、以前より「寒い国」にやってきたので、すぐに泳ぐ気にもなれませんでした。水の透明度も、それまでの島に比べるとオソマツ。だけど、久々の先進国は宝の島でした。

グアムはアメリカ。何でもあります。噂には聞いていましたが、アメリカの食べ物は量が多い!ニュージーランドの食事も日本の人には多いと感じられますが、アメリカはそれに輪をかけているようです。ただただ、すごいなぁ・・・。

それと、アメリカにはチップの習慣があるんですよね。ニュージーランドにはチップの習慣はなく、示された数字を払えばよいのです。税金は12.5%と恐ろしく高いですが、内税であるために気になることはなく、価格として支払っています。だから、有り金ギリギリで支払えると思っていたので、ずいぶん困ってしまいました。もっとも、高級レストランなんかを利用したわけではないので、小銭程度の話なのですが。

余談ですが、わたしはトム・ハンクス主演の映画「キャスト・アウェイ」をみた際に「そうそう、そうなんだよ」と何度もうなづいてしまったのですが、どうもほかの人はちっとも共感や感動をしないようなのです。日本で上映されたかどうかは定かではないのですが、ニュージーランドの知り合いは口を揃えて「意味が分かんない、つまらない」というのです。

映画の中で、孤独なトムはボールに顔を描いて話しかける部分が出てくるのですが、これなんかわたしも実際にやっていたことです。さすがに顔は描かなかったけれど、ヨットの道具にはすべて名前がついており、ひとりで夜空を見上げながら舵を握っている時などには、ときおり話相手にしていました・・・。

また、救助されて生還パーティを開かれるシーンでも、その大量に並べられたごちそうに喜びではなく、むなしさのようなものを感じるのですが、それもわたしには理解できることでした。グアムの裕福さを目の当たりにした時、同じような気持ちになったものです。ただ、そんなことをいえるのも、求めれば得られる立場にあるからなのでしょう。

ちなみに、わたしがほかに共感できた映画は日本の作品である「南極料理人」です。これも、両手をたたいて「わかる、わかる」と感動したのですが、友人はさっぱり伝わらないようで、「あんたは人里離れた孤島の生活に共感できるんだろう」といわれましたが。

ところで、グアムへの観光客はその9割が日本人で占めているそうですが、わたしたちの停泊したところはかなり離れていたらしく、日本の人に会うことは一度もありませんでした。地元の人によると、島の一部分だけが、観光のために一気に開発されたというような話でした。ホテルやショップ、レストランが密集している地帯があるようです。ただ、それによって島人の暮らしが潤っているので、不快感を持っているという感じではありませんでした。

久々に普通に言葉が通じるグアムで、夫は大工仕事やヨットの修理の手伝いをし始めました。地元に住む人ともとても仲良くなり、一緒に食事するようにもなっていました。

また、「ブッククラブ」という会があり、メンバーの誰かの推薦書をみんなで読んで感想を述べ合うという集いが催されていました。

偶然、わたしがグアムを訪れていた際の推薦書が「memoirs of geisha」でした。これは、後に渡辺謙さんや桃井かおりさんなどのすばらしい役者さんが演じて、「さゆり」という題でハリウッドにて映画化されたものの原書(?)です。京都の売れっ子芸者の一生をアメリカ人作家がしたためた作品です。

ブッククラブの皆さんは一同にすばらしいと賞賛し、ここぞとばかりにわたしに「本当にこんなことがあったの?」、「みんな、この人のようにきれいなの(芸者さんの写真があったため)」などと次々と質問してきました。でも、わたしに聞かれても・・・芸者さんとの交流はまったくないですしね。くれるというので一冊もらって、日本への航海の途中で読みました。英文で、片手で操縦しつつではありますが、これは次々とページをめくる内容でした。お陰でずいぶんコースが狂って、夫に叱られましたが・・・(危うく、アラスカにでも行ってしまうところでした)。

そう遠くではない昔に、日本でも「口減らし」というものがあって、貧しい家では子どもを売ってお金にするということが頻繁におこなわれていたということ。売られた子どもは芸者になって、今でいうオークションで一番の高値をつけた「旦那さん」に愛人として買い取られたことなど、今ならあり得ないことが、第二次大戦以前には行われていたということが書かれていました。メインはドロドロとした女の戦いや、そこから這い上がっていく女性のサクセスストーリーなのですが。

もし、戦争がなかったら、今でも日本はそんな風習が残っていたのでしょうか?もし、戦争で日本を占拠したのがロシアだったら、今とはかなり違っていたのでしょうか?

この一冊で、日本のことをずいぶん考えさせられることになりました。

何だかグアムに馴染んでしまい、このままグアム住まいかな〜などと思ったりもしましたが、ビザやパスポートの関係で結局出発することになりました。

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ライタープロフィール

山下なおこさん/女性/年齢:30代/ニュージーランド滞在(16年以上)、自然と素朴な料理が好きな女性です。