トロピカル・タイム〜南太平洋航海記〜
ニュージーランドからヨットで南太平洋をクルージング。4年間の南太平洋航海記

南国に行きたい病がまたまた発症!

2010/11/19

2004年 5〜6月
さて、そんなのんびりと楽しいニュージーランドの夏を堪能していたのですが、またしても冬が訪れようとしていました。

「今年はちょっと苦しいよね」と経済的な困窮を理由に、今回は大人しくニュージーランドにいることになりました。

「もっとお金を貯めれば、余裕のある旅ができるもんね」とわたしたちの懐具合をよく知っている周囲は助言しますし、自分自身にいいきかせもしていました。冬じたくのために、帆もおろしてすっかり冬眠する気配だったのです。また、格安で停泊できるマリーナを見つけ、これで冬の暴風雨も大丈夫のはずと腰を落ち着けていたのでした。 ところが、日に日に北に向けて帆を上げるヨットを見送っているうちに、急に心がざわめいてきたのです。

「やっぱり行きたいよ〜」

相変わらずの病気が発症してしまったのです。けれど、夫のほうが至極冷静で「もう遅い」と。

ちなみに、ニュージーランドからは、ニューカレドニア、バヌアツ、フィージー、トンガ、タヒチ、クック諸島という方面に向かうのが人気のあるルートです。また、「どこそこへ行くなら、この時期」、と微妙な風向きによって目的地への出発時期が変わります。

出発する気のなかったわたしたちは、時間が経過してしまっており、行けないことはありませんが難しいというのです。ただ、比較的近いフィージーなら、まだ行けるかも?という希望がありました。

そこで、夫はセカンドハンドのチャート(海の地図)を手に入れるべく、出掛けて行きました。そして、帰ってきた夫はひとこと「トンガに行くぞ」と。「なんで?フィージーじゃないの?」と尋ねるわたしに、「フィージーのチャートは売り切れで、トンガしかなかったから」という答えが返ってきました。

かくして、わたしたちはトンガに向かうことになったのです。

すでに冬真っ盛りのニュージーランド近海は荒れに荒れ、最初の数日間はずいぶん苦労しました。いつひっくり返るかと思うくらい傾いて、船内にいても嫌というほど海水を浴びましたが、そんな大荒れもトンガに近づくにつれ穏やかになっていきました。

そして、ついにトンガの首都、トンガタプ島にあるヌクアロファに到着しました。ただ、いつまで待っても、係官のような人は接近してくれません。仕方がないので、ひとりで小舟に乗りこんで上陸、入国管理的な小さな小屋に入っていきました。

コンクリートの小屋の中には、むき出しのコンクリートの床と簡素なデスクと椅子のセットがひとつだけ。中には誰もいません。そこで、近くにいたおじさんに、事情を説明すると誰かを呼んできてくれました。

なのに、その呼ばれてきた人は、何だかコンクリートの床をほうきで掃き始めたのです。この人はお掃除のおじさんかしら・・・とどうしてよいのか分からずにいると、やみくもに「パスポート」と。

あぁ、この人が管理官なんだと思いながら、何で先に掃除するの?など考えつつも、一応いかめしい顔のそのおじさんの前で慎重な姿勢で立っていました。しばらく何だか書いていたようですが、「あっ、赤ちゃんがいるんだ」と息子のパスポートに気づいた途端、いきなり満面の笑顔になり、すごい勢いでハンコをベタベタとおしてくれ、無事に入国できることになりました。

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ライタープロフィール

山下なおこさん/女性/年齢:30代/ニュージーランド滞在(16年以上)、自然と素朴な料理が好きな女性です。