シャーロック・ホームズをめぐる旅
ホームズがいた街ってどんなところ?ホームズについての面白い話を紹介します。

「ザ・パーク」を訪ねて

2010/09/09

「黄色い顔」の中で、ホームズとワトソンは、早春のある日、ハイドパークに散歩に出かけます。「ハイドパーク」とあるのは、創元推理文庫版・鮎川信夫訳。私は、この昭和の香りもゆかしい創元版を愛読しているので、タイトルその他はこれによっているのですが、訳によっては、ここはただ「公園」であって、どの公園であるかの指定はない……と。

しからば原文はと調べてみると、「ザ・パーク」。ロンドンには、ほかにもリージェンツ・パーク、グリーン・パーク、セント・ジェイムズ・パークと名園が数々があれど、「The」をつけるような、ロンドンを代表する公園といえば、やはりハイド・パークにしくはないと思うのですが。

ただし、ベーカー・ストリートからは、リージェンツ・パークのほうが近いかな。でも、リージェンツ・パークであれば、公園内の「動物園(ロンドン・ズー)には寄らずに……」といったひと言があってもいいのではないか。やはりここは、ハイド・パークにしておきましょう。

なにしろ、ロンドンの超一等地「メイフェア」(オックスフォード・ストリート、ピカデリー、リージェント・ストリート、ハイドパークに囲まれた地区。ミュージカル「マイフェア・レディ」の「マイフェア」はそのシャレというか、皮肉でもある)の一角。周辺には、超高級ホテル(ホームズの時代であれば、貴族の大邸宅)の立ちならぶ、気分転換にぶらつくには最適なところです。

ホームズのシリーズで、確実にハイド・パークに言及しているのは、「独身の貴族」。失踪した花嫁の遺体を探して、レストレイド警部は公園内のサーペンタイン池をさぐった顛末を話して、ホームズに笑われています。「池」といっても、となりのケンジントン・ガーデンズ内の「ロング・ウォーター」部分と合わせれば、東西1kmはあろうかという「湖」です。本来の呼称は単に「The Serpentine」。「池」も「湖」もつきません。

ところで「独身の貴族」のセント・サイモン卿。公爵の次男であれば、「ロバート卿」と呼ぶべきではないか――と、ドロシー・L・セイヤーズの「ピーター卿」シリーズのファンでもある私は考えます。もっとも、ホームズが貴族の呼び方を間違えるはずはなく、これは記録係のワトソンのミスに違いないのですが。

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ライタープロフィール

オオタクーミンさん/女性/東京在住、もしかして「鉄子」と「歴女」のさきがけだったのかも知れない、ぎりぎりアラフォー世代のライターです。小さいころから、愛読書の1つが時刻表で、プライベートの国内旅行には、たとえ北海道を旅するのにも、飛行機を使うなんてことは、はじめから考えない、まったく日航を応援してない日本人です。