英語翻訳のアルバイト体験記
「翻訳をするときのコツ」「翻訳をして楽しかったこと」「失敗談」など翻訳のアルバイト体験記を紹介します。

翻訳の苦労

2012/04/24

大学の先生の紹介で、とある学術書の翻訳をしたことがあります。実際に英文で全文を読んでみて、さほど癖のある文ではなかったので、当初はすぐ終わるだろうと安易に考えていました。しかし、実際に翻訳の作業に取り掛かってみると、これがどうしたことか、非常に手間がかかる。まさか翻訳がこれほど大変だとは思いもしませんでした。

結論から言えば、内容への理解です。上で述べたように、文自体はさほど難解なものではありませんでした。イギリス人特有の回りくどい表現があるわけでもなく、ほとんど見かけることのないような妙な単語が使われているわけでもない。ただ、内容理解が不十分だったため、たとえば本文中の英単語一つをとっても、「なぜその訳語を使うのか」という問に十分に答えることができなかったのです。特に学術書特有の言葉。分かりやすい例を挙げれば、「〜主義」みたいなやつです。言葉尻だけをとらえて、辞書的な訳語をつけていたのですが、よくよく読見直してみれば、どうも辞書的な意味合いで使われていない。そうなると文脈からその単語にふさわしい訳語をつけるのですが、当然辞書的な意味合いだって捨てるわけにはいかない。はたまた、ちょうどよい日本語が見つからない。よく「翻訳で何が大変だった」ということを聞かれるのですが、わたしが体験的に痛感したのはまさにその点です。

こんな具合でしたので、たかだか本の中の一章分を担当しただけなのに、相当時間がかかってしまいました。ベースとなる訳を作り、それを指導教授に見せてから修正にかかる。うまい具合に、すでに日本語訳として一般化されたものがあればそれを真似すればいいのですが、そうでなければ上で書いたような作業をしなければならないわけです。

よほど興味を持った研究でも、ただ読み進めていくだけならこれほど読み込みはしなかったでしょう。翻訳は非常に大変な作業でしたが、おおげさに言ってしまえば本の読み方が変わったという意味で、わたしにとってとても貴重な経験になりました。

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ライタープロフィール

横浜ホームズさん/男性/年齢:30代/横浜在住、福岡から横浜に来てはや10数年。もはや博多っ子と浜っ子の境を見失う30男。美しいものが好き。だけど醜いものはもっと好き。人生、味がある方がいいよね。