文化ホールの仕事体験記
キイチロウさんの文化ホール仕事体験記を紹介します。

実際に働いてみて驚いたこと

2011/09/30

文化ホールというのは、行政の中で一番行政らしくない仕事です。仕事で関わる芸能プロダクションや芸能界の人たちが、普段の私たちとは掛け離れた存在だからです。

芸能界では、その日初めて会った人には、必ず「お早うございます」と挨拶をします。文化ホール初日、午後6時にスタッフから「お早うございます」と挨拶された私は、「こんにちは」と返事してしまいました。すると2番目にあったスタッフも、3番目にあったスタッフも、私に「おはようございます」といったのです。

そしてその日の主役、歌手の天童よしみさんが、前方からやってきました。躊躇する私に、天童さんは自分から「お早うございます」と言葉をかけてくれました。

仕事前に私は皆から、誰かに会ったら「お早うございますと挨拶するように」といわれていました。しかし私は、そんな馬鹿なことはない、と思っていました。きっと皆は、初めての私をからかって喜ぶつもりなのだと思っていたのです。

芸能界には、芸能界だけの決まりごとが多くあります。そしてそれは、演劇やコンサート、日本舞踊やバレエなどで全く違います。

夜の7時に「お早うございます」と挨拶し合う光景を一般の人が見たら、間違いなく変だと思うでしょう。しかしそれを当たり前として行なわなくては、芸能界では礼儀を損なってしまいます。多くの決まりごとを皆がきちんと守るからこそ、スムーズに演劇やコンサートが公演できるのです。

ツアーで巡業する場合、芸能人やスタッフは全国各地の文化ホールを移動します。文化ホールにはそれぞれ決まりことがあり、そのホール毎に設備や操作方法も違います。

お世話になるという意味も込めて、ホールに着いたらまずスタッフは、小屋付きの人(ホールの舞台職員)に挨拶をします。大スターといわれる芸能人でもそれは同じで、舞台袖にいる私たちを見ると、森進一さんでも、八代亜紀さんでも、自分から立ち止って挨拶をしてきました。

そのことを知らなかった私は、恐縮するどころか、震えてしまいました。勿論、悪い気分ではなかったのですが、大スターから挨拶される自分は一体何なんだろうと、真剣に考えてしまったほどでした。

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ライタープロフィール

キイチロウ/男性/50代/福井県在住/ごく普通の仕事をしていて、ごく普通の考え方をする、ごく普通の趣味を持った、ごく普通の外見の人間です。ただ他の人よりも少しだけ、人間ウォッチングに優れていると自分では思っています。