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モロッコ/迷宮に誘うランプの光

2012/10/25

モロッコ 狭い路地を行き交うロバ

モロッコ 狭い路地を行き交うロバ

狭い路地を行き交うロバ。市場の喧騒。アラブの香り。迷路のような分かれ道。日常から迷い込んだ迷宮、そんな名にふさわしい町が、フェズだ。

メディナと呼ばれる旧市街は、まさに迷宮として、世界的に有名。私も、他の旅行者と違わず、ここに足を踏み入れ、そして道に迷子になった一人だ。こっちから来たはずなのに、出口がない。右を曲がっても左を曲がっても、前に進んでも引き返しても、同じような道しかない。そして、ウロウロしているうちに、日は暮れていく。

このまま帰れないんじゃないか…途方に暮れ始めたあたりで、私は、目の前にあった、ランプ屋に引き寄せられていた。

店には、色とりどりの怪しい光が、たくさん灯っていた。そして、足を踏み入れると、その瞬間からまるで時間が途切れてしまったかのように、何かがピッタリと止まった。いつしか市場の喧騒は消え、私とランプの光だけの空間になっていた。

店のショーケースは、ほころびている。ランプも埃をかぶり、きな臭い匂いがする。私は、ゆっくりと品物のランプを見てまわる。ランプは、煌々と輝いている。

すると、店主がひょっこりと顔を出す。しわが深く刻まれた老人で、物静かだ。営業活動に熱心でないのか、何も言葉を発しない。男は、じっと、しわを更に深く刻んで、私の方を見つめている。男は、ほんの少しだけ、にかっと笑う。歯は黄色く、目は充血していた。

不思議な時間感覚だった。ランプの色には、世界を変える力があった。ここは、外の世界とは違う。モロッコという異空間に切り取りとられてしまう。

私は、このランプの力に惹かれ、ランプを買って店を出た。

店から出ると、突如、日常に戻っていた。人々はせわしく路地を行き交い、日は暮れていた。そしてランプの袋を手にしてめぐりめぐって、どうにか私は迷宮を出た。

日本に帰って、ランプをつけようとしたけれど、どうやら道すがら壊れてしまったのか、そのランプがつくことはなかった。それでも、いつか、このランプがつく時が来るような気がして、たんすの奥にまだしまってある。

ランプがつくその時、私はまたあの迷宮にさまよえるんじゃないか、そんな気がして。

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ライタープロフィール

中花香さん/女性/年齢:20代/鎌倉出身/会社員/海外旅行、バイオリン演奏、ライブなどが趣味。好きなものは映像、絵本、仏像などです。