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スリランカの海辺の町の、曖昧な時計屋

2013/01/09

海の陽射しの爽快感。青い空気。観光客のいない道。閑散とした、田舎の風景。私がやってきたのは、静かな海辺の町、ヒッカドゥワだった。

ヒッカドゥワまでは、首都コロンボから電車で数時間で行く事ができる。時には、波打ち際から10m〜20mほどの海に近い場所に線路が走る、なんとものどかな風景。ヒッカドゥワはサーフィンのメッカとして知られていて、シーズンになるとたくさんの観光客が訪れるそうなのだが、オフにやってきた私は、誰もいない町で、毎日波の音を聞きながら過ごすこととなった。

このとき、私は時計を持っていなかった。腕時計をする習慣がなかったし、必要もなかったからかもしれない。ただ、こんなゆっくりとした町で時計もなかったら、時間の感覚が完全に狂いそうだと思い、私は時計屋を探した。しばらくウロウロしていたら、バスステーション近くの建物の二階に時計屋があった。バスステーションといっても、田舎の駅のロータリーほどの大きさもないものだったけれど。

汚れたガラス張りの店内には、商品がごった返していた。時計もあれば時計じゃないものもあった。レジの向こうには、ひっそりと息を潜めたように、男がいた。扉を開ける。時計の音が、かすかにする。かち、かち・・・ショーケースには商品は並べられていなくて、どちらかというと放り込まれているといった感じ。

店員の男は、中年の少し汚れた男だった。しかし、純粋で優しい目をしていた。時計屋の店内は、時計屋なのにも関わらず、時間がずれているような気がした。散乱する時計、動いている時計、動いていない時計、時間が狂っている時計…時には関係ないものも置かれた乱雑な店内。

私がアラームつきの時計がほしい、と言うと、時計屋はどこに何があるのかわからないほどごったに商品が置かれたガラスケースの中から、迷うことなく時計を取り出した。時計はヨレヨレになった紙ケースに入っていた。アラーム付かと聞くと、アラーム付だと時計屋は言った。

ケースから、時計屋は大事そうに時計を取り出す。そして、時計に電池を装着する。ゆっくりと指を差し込んで。噛み合わせが悪く、ふたがなかなか閉まらない。何度か苦労を重ねて体裁を整えると、再びビニールにいれ、ヨレヨレのケースに入れ直して、ニッコリと笑って私に渡す。私はありがとう、とひとこと言って、店を去った。

その時計は、困ったことに、かなりアバウトだった。短針がいつも、数字のちょうど中間を指していて、1時なのか2時なのか、何時なのか、微妙すぎてよくわからなかった。意味ないじゃないか。私は笑ってしまった。

曖昧な時計屋。でも、なんだろう、スリランカの時計屋は、このくらいの方がいいや、そんな気がして、私は時計を大事に大事に使っていた。

ライタープロフィール

中花香さん/女性/年齢:20代/鎌倉出身/会社員/海外旅行、バイオリン演奏、ライブなどが趣味。好きなものは映像、絵本、仏像などです。