感動した話
思い出すとジーンとくる…感動した話を紹介します。

ダライ・ラマとお辞儀をし合ったお説法の日

2014/01/27

ダライ・ラマとお辞儀をし合ったお説法の日

ダライ・ラマとお辞儀をし合ったお説法の日

2010年9月、北インドの町、ダラムサラに滞在していたときのこと。ダライ・ラマ14世が公開のお説法を開くという話が伝わってきました。ダラムサラはチベット亡命政府の拠点で、ダライ・ラマの官邸がある町でもあります。ただ、ダライ・ラマは海外訪問で不在のことが多く、公開のお説法を聞けるのはとてもラッキーだということでした。

そこで現地で知り合った各国の友人たちと誘い合わせて、お説法を聞きに行くことにしました。ただダライ・ラマは要人中の要人なので、当日会場に来た人を誰でも受け入れるというわけにはいきません。前日までに登録所にパスポートと証明写真を持って行き、必要書類に記入し、当日の入場パスを発行してもらう、という念の入れようでした。

当日の会場はダライ・ラマ官邸の隣にある公会堂でした(冒頭写真)。入場すると、大きなフロアが相撲の升席のようにロープで区切られていました。これは聴衆を国別に分けるためとのこと。日本枠もありました。

升席にぐるりと囲まれた中央に高い台座が置かれ、ダライ・ラマがそこに座りました。当時お年はすでに75歳でしたが、足取りも背筋もしっかりしてらっしゃって、とても若々しく見えました。

肝心のお説法が始まり、日本語にチャンネルを合わせましたが、日本語なのにまったく何を言っているのか分からない…… 難解で知られるチベット仏教の仏典の解説、しかもチベット語を通訳しているわけなので、まあ意味が通じないのも仕方がありません。

立ち去り際の美しい瞬間
というわけで、題名の「感動!」はお説法自体に感動したという意味ではありません。(ダライ・ラマ、ごめんなさい)ダライ・ラマがお説法を終え、満場の拍手の中、日本枠に背を向ける格好で立ち去ろうとしていたときでした。くるり、とこちらを向かれ、わたしとばっちり目が合ったのです。とっさにお辞儀をすると、立ち止まってにこやかに胸の前で手を合わせ、お辞儀を返してくださいました。「みんな自分にしたって言うんだよ」と友人たちには笑われましたが、目が合ったこととお辞儀のタイミングを考えると、わたし個人にしてくださったのだと今でも思っています。

世界中から尊敬を集める仏教界の最高権威でありながら、自分に向けられたお辞儀には丁寧にお辞儀を返す、そのお人柄に胸が熱くなるほどの感動を覚えたのでした。

ライタープロフィール

そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。