- 心に残る一冊
- お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。
人生を変えた、ランボーの旅と文学への熱い想い
2014/01/06
大きな悩みから小さな悩みまで、誰しも思春期はいろいろ考えることがあって大変だったのではないでしょうか。そんな思春期こそ、その後の人生に大きな影響を与えたり、考え方を形作ったりする本に出会いやすいのだと思います。
まさに思春期のど真ん中の15歳のとき、わたしはひとりの詩人に出会いました。彼の名はアルチュール・ランボー。19世紀後半のフランスで活躍した、不世出の天才にしてフランス最大の詩人のひとりです。
さまざまな出版社からいろいろなバージョンの詩集が出ているのですが、わたしが初めて手にしたのは堀口大學という詩人が訳した「ランボー詩集」でした。薄くはかなげな見た目からは想像できないほどのエネルギーを秘めたこの本は、わたしの生き方に消したくても消せない影響を与えてくれました。
ランボーは15歳で詩を書き始め、16歳でパリの雑誌に詩が載ると、早熟の天才として大きく脚光を浴びます。初期の彼の詩には複雑な技巧と、若さからの怒りと情熱が入り混じっています。例えば田舎の小役人への痛烈な風刺。例えば厳しいカトリック教徒だった母親への反抗心。そして旅への抑えがたい憧れ。
わたしが一番好きなのは、「ちくちくする草の感触を足に感じながら、夕暮れの道を僕は行こう」から始まる「感触」、「小熊座が僕の宿」と言ってみせる「わが放浪」のような、まさに旅への憧れを描いた詩たちです。ランボーは詩を書き始めた15歳のころから頻繁に家出をくり返し、ベルギーやパリに徒歩で(!)行ってしまうような少年でした。田舎の小都市で悶々とした毎日を送る高校生のわたしには、自分の足だけでどこにでも行ってしまえると思って、本当にそうしてしまった彼が羨ましくて仕方がありませんでした。
ランボーには到底及ばないながらも影響されて詩を書き始め、やがて詩では掬いきれないストーリーをもっと書きたいと思うようになり、小説を書くようになりました。大学生になってからは、高校生のときに夢見ていたランボーのような一人旅ができるようになり、国内外にずいぶん旅行をしました。そして現在は、インターネットのおかげで、ランボーのように「書きながら旅」をしています。
美しい人々や景色に出会うたびに、ランボーが与えてくれた「自分の足でどこにでも行ける」という気持ちを思い出します。誰が何と言おうと、ランボーはわたしの永遠のヒーローです。
ランボー詩集 (新潮文庫)
そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。