心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

ユーモアたっぷりの物語、奥田英朗さんの魅力

2021/02/05

奥田英朗さんは1997年に「ウランバーナの森」でデビューしました。他の作家と少し違うのが、デビューが出版社への持ち込みだったところ。新人賞を獲ったわけでなく、自らの持ち込みというのは少し珍しいのではないでしょうか。しかしながらその2年後の1999年には「最悪」で「このミステリーがすごい!」いわゆる「このミス」で第7位にランクインしている事実を見ると、奥田英朗さんは元々才能がある人だったというのがわかります。

奥田英朗さんの作品の面白さは、なんと言ってもその破天荒さ。物語の展開、登場人物すべてが破天荒。奥田英朗さんの代表作と言えば、直木三十五賞を受賞した「空中ブランコ」ですが、その主人公の伊良部医師を筆頭に、オムニバス形式の小説「ララピポ」の登場人物たち、「サウスバウンド」では一家の大黒柱である一郎など、数々の破天荒なキャラクターたちが騒動を起こします。一見普通の家族小説である「家日和」、「我が家の問題」などのシリーズに登場する奥さんもどこか破天荒で、夫をやり込めたりちょっと困らせたりするのです。

この登場人物たちの破天荒さは、読んでいて本当にスカッとします。こんな手放しのおバカになり切れたらどんなに楽しいか!自分の人生だもの!やりたいようにやる!…と思い切れないのが、小説の中ではなく現実に生きる私たち。悲しいけれどその代わり、奥田英朗さんの小説がそれを叶えてくれます。登場人物みんな破天荒で無鉄砲。でもとても愛すべき人たちで、周りは大変だけれどこんな人、一人ぐらいいたら楽しそうだなぁとつい思ってしまうはずです。

例えば仕事で失敗して自己嫌悪に陥った時、例えばもっとこうすればうまくいったと後悔した時。そんな時に奥田英朗さんの作品を読めば、細かいことなど気にも止めない登場人物たちがいきいきと我が道を行き、気楽な気持ちを取り戻すことができるでしょう。影があっても底抜けに明るく見える魅力的なキャラクターばかりの小説、ぜひ読んでみませんか?

新装版 ウランバーナの森 (講談社文庫)
ララピポ (幻冬舎文庫)

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。