心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

飾らない人間のありのままの姿を描く、角田光代さんの魅力

2021/02/03

角田光代さんは1990年に「幸福な遊戯」でデビューしました。代表作は直木三十五賞を受賞した「対岸の彼女」。いろんな立場で生きる女性を鋭い視点で描いた作品が多く、人間味あふれる女性たちがたくさん登場します。中には一見だらしなく見える女性も、読んでいて「こうすればいいのに」と思わずヤキモキしてしまう女性も。しかしそれこそ人間のありのままの姿。完璧な人間などいない、弱さが魅力とも言える人たちがごく普通の日常を生きていく姿こそが、角田光代さんの作品の魅力です。

誰の身にも起こりそうな、誤解を恐れずに言えば「ありきたり」の日常。その中で生きる自分の隣人のような登場人物たちですが、角田光代さんが描くと一気に魅力を増し、みずみずしさが生まれます。読み始めにはだらしなく見えた主人公も、読み終わる頃には実は芯があって強い女性なんだと思ってしまう。あるいは物語を通してどんどん強くなっていく。そのきっかけはとても些細で見逃してしまいそうなものばかり。自分もそんな小さなきっかけを見逃しているんじゃないか、ついそう考えてしまいます。

角田光代さんが描く物語は、日常そのもの。仲良し夫婦に見えてもお互い何かしら思うところがあったり、自分が空回りしていだけだったと気づいて虚しさに捉われたり…。そのどれもが日常で、そこでみんな必死に生きていて、だからこそみずみずしさを感じるのだと思います。

母親だったり妻だったり誰かの彼女だったり元妻だったり、娘だったり誰のものでもなかったり。現代社会にはいろんな立場を生きる女性がいます。日々を必死に生きていると、自分の立場からの視点でだけ物事を見ることが当たり前になってしまいます。自分の置かれた立場での「当たり前」は他の人から見ると当たり前ではないかもしれない。角田光代さんの作品はそんなことを思い出させてくれます。淡々と描かれた日常の中には、明日の自分を変える何かがあるのかもしれません。

幸福な遊戯 (角川文庫)
対岸の彼女 (文春文庫)

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。