心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

温かい文章で読む人を癒す、宮部みゆきさんの魅力

2021/02/01

宮部みゆきさんは1987年に、「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビューしました。デビュー前には法律事務所で働いていた経験があり、その同時の知識などが作品の緻密さに繋がっているように思います。また宮部みゆきさんは直木三十五賞を始め、日本推理作家協会賞、芸術選奨など多数の賞を受賞している日本を代表する作家。映画化やドラマ化された作品も多いので、実際に本を読んだことはなくても知っている作品がある方も多いと思います。

一般に宮部みゆきさんというと、「模倣犯」や「理由」など推理作家のイメージを持たれる人が多いかもしれませんが、実は時代小説なども多数手掛けています。中でも「ぼんくら」は江戸時代の深川界隈を舞台にしたミステリーで、時代小説ながら本格ミステリーということで大変な人気を集めています。

さて、宮部みゆきさんの作品の魅力は緻密かつ大胆なストーリー展開もさることながら、なんと言っても人物描写の豊かさだと思います。登場人物の生きてきた人生、背景、それによって成り立つ人物そのものの描写が秀逸。登場人物の年代問わず、どの人物もいきいきとして魅力的です。その登場人物の中でも特に子どもたちは素直でユーモアがある子どもが多く、物語の中で重要な役割を担う存在です。ちょっぴり生意気で情に脆く、子どもならではの発想力を持った子どもたち。この子たちの存在が、ともすれば暗くなりがちな「推理小説」というジャンルの物語に温かさと明るさを与えています。

さらに、宮部みゆきさんの書く文章には優しさが垣間見えてくるのも魅力のひとつ。ミステリーという硬派な内容とは一見相反するような文章が、たとえ加害者であろうとも温かさを感じさせ、人間味のある物語にしていると思うのです。本物の「悪」を描くのではなく、その「悪」に至るまでの背景や理由、取り巻く人間をも詳細に描く宮部みゆきさんの物語。それと同時に感じるひとつひとつの文章そのものの温かさが宮部みゆきさんの大きな魅力だと思います。
我らが隣人の犯罪 (文春文庫)
模倣犯 1

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。