心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

文字でドキドキさせる・貴志祐介さんの魅力

2021/01/28

貴志祐介さんは1996年に「十三番目の人格 ISOLA」で、日本ホラー小説大賞長編賞佳作を受賞しデビューした作家です。ホラー作家として有名で数々の作品を発表していますが、他にも青春ミステリーや壮大なファンタジー作品も多数書いています。

私が貴志祐介さんを知ったのは、「青の炎」(1999年)という作品です。高校時代に友達に薦められて読んだのですが、暗く切ないけれど、その中にキラキラとした青春が描かれていて、犯罪小説ながらとても感動しました。それから貴志祐介さんのファンになったのですが、他の作品を読むうちにその作品の振れ幅に驚きました。同じ作家が書いたと思えないほどいろんなジャンル、いろんな表現があり、そのどれもがドキドキする作品です。

この、本を読んで感じる「ドキドキ」という気持ち。これこそが貴志祐介さんの作品の魅力。この気持ちを感じる時というのは、いろんな場面が想像できます。恋愛においてだったり、犯罪が暴かれる瞬間だったり。貴志祐介さんが描く「ドキドキ」する場面で特に秀逸なのが、恐怖の瞬間においてです。

例えば主人公が恐怖の対象に向かって階段を上って行くという場面。読み手はその映像を実際に見ているわけでもなく、文字を追っているだけ。なのに主人公が階段を一段上るごとにゾクゾクし、何か突発的な異常が起こると自分も飛び上がるほどに恐怖を感じる。文字だけでこんなにも恐怖を感じさせ、まるで読み手にとっての一文字が主人公にとっての階段一段のような気持ちなってしまうのです。

かと思えば貴志祐介さんは、ファンタジー作品でもドキドキさせてくれます。ホラー作品のドキドキとは違う「主人公がいるこの世界はこの先どうなっていくんだろう」というドキドキ感。希望が垣間見えるドキドキ感というか、希望が裏切られるかもしれないドキドキ感というか。そういういろんな「ドキドキ」が随所に詰まっているのが貴志祐介さんの作品です。いろんな「ドキドキ」を体感したい時には、ぜひ貴志祐介さんの本を開いてみてください。

十三番目の人格 ISOLA (角川ホラー文庫)

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。