心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

涙なしでは読めない、重松清さんの本

2021/01/27

重松清さんの作品の中には、温かくて面白くて優しい気持ちを持った人物がたくさん登場します。物語の中で見られるその登場人物たちが繰り広げる会話は、重松清さんの作品の魅力のひとつ。そんなたくさんの作品の中でも、きっと好きになってしまう魅力的な登場人物、その登場人物たちの温かい会話が存分に楽しめる作品をご紹介します。重松清さんの作品は少し哀愁があって切なくて、ホロっときてしまう作品が多いですが、その代表格の作品でもあります。

○感動のファンタジー「流星ワゴン」
2002年の作品。職を失い、家庭も「かけらを貼り合わせることもできないほど粉々に」壊れてしまった38歳の主人公。瀬戸内の町に住む年老いた父親は生死の間を彷徨っている。そんな人生のどん底にいる主人公は「死にたい」でも「死のう」でもなく、ふと「死んじゃってもいいかなあ」と思います。そんな時目の前に現れた一台の車。それは、不思議であったかい親子が乗った古い型のオデッセイ。そのオデッセイが行く先で、現実とも夢ともつかない体験をします。そして、自分と同い年だった頃の父親と出会うことで過去をやり直そうとする。破天荒な行動を繰り返す、若かりし頃の父親に背中を押されながらのやり直しの旅はうまくいくのか…。
流星ワゴン (講談社文庫)

この作品は内容もさることながら、物語の中で交わされる会話にも面白さがあります。特にオデッセイの持ち主である橋本さんと、その息子・健太くんのやりとり。不器用でちょっと気弱な父親と、活発な息子が交わす会話。どこにでもいるような親子の会話にはついほっこりとしてしまいます。そしてもう1組の親子、チュウさんと主人公。こちらは父親であるチュウさんの方が強く、そのチュウさんに主人公は押されっぱなしです。そんな2組の対照的な親子を軸に進んでいく物語は、切なさ・やりきれなさ・後悔と、一見すると暗いテーマ。ですがこの2組の親子の会話の中にある温かさでそれが中和され、希望を持って読み進めることができます。

誰もが思う、「あの時こうしていれば」。そんな後悔の気持ちに寄り添ってくれる、とても温かい物語です。

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。