心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

温かな言葉と描写。重松清さんの魅力

2021/01/26

重松清さんは岡山県津山市出身。デビュー作は「ビフォア・ラン」。しかしそれ以前からフリーライターとして活動し、雑誌記者やゴーストライターとして執筆していました。「重松清」という名前以外に多数のペンネームで執筆し、中にはヒット作となったものもあります。重松清名義ではドラマ化された作品も数多く、普通の人の日常の中で起こる小さな出来事を題材にした物語は多くの人に愛されています。
ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)

私が最初に重松清さんの出身地をわざわざ書いたのは、この岡山県出身という重松清さんのプロフィールが、作品に大きく関わっているから。重松清さんの作品は主人公が瀬戸内の出身であることが多いのですが、それが「上京」「里帰り」など、重松清さんの作品テーマに説得力を与えているように思います。さらに作品の登場人物が語る岡山弁が、時に切なく、時に温かくて、より作品の世界に没頭でき、物語が深く入ってきます。

重松清さんの作品は、親と子、夫婦、など、ごくありふれた人間関係を描いた作品が多いです。親から見た子供、子供から見た親、親である自分が生きた子供時代への思い、年老いた親に対する思い、知らなかった妻・夫の一面。そういうものが温かい言葉で描かれ、共感したり、自分を振り返ったりするきっかけにもなります。重松清さんが描く物語によって、「子供の頃に私がかけてもらいたかった言葉はこれだったんだ」と思ってハッとしたり、「あの時本当はこういうことを伝えたかったんだ」と気付いたりすることで、不思議と心がすーっと軽くなるのです。

重松清さんが描く物語を読むと、自分が忘れていたものを過去に戻って取り返しに行ったような気分になれます。悲しみがテーマになっている物語ももちろんあって、自分には耐えきれないであろう体験をする主人公もいます。ですが重松清さんが綴るそれぞれの文章の中に自分が忘れていた何かが必ずあって、切なさと同時に自分の人生が愛おしくなるような気持ちになるのです。いろんな人がいて、想像もしなかったことが普通に起こる今の時代こそ、重松清さんの作品の良さがさらに際立つと思います。

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。