心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

日常の怖さと非日常の怖さ!乃南アサさんの本

2021/01/25

乃南アサさんの作品で自分は何をおすすめしたいのか…。とても悩みましたが、やはり日常に潜む怖さを描いた作品はおすすめしたい。でもそれだけ乃南アサさんの作品の魅力は伝えきれない。ということで、警察の人間ではない自分にとっての非日常の怖さを描いた警察小説を取り上げることにしました。日常と非日常を味わえる2冊をご紹介します。

○体をテーマにした短編集「?」
1999年の作品。「臍」「つむじ」「尻」など体にまつわるものをテーマに書かれたホラー短編集です。「臍」は、娘に臍の整形手術をしたいとせがまれ美容外科について行くことになった母親が主人公。整形手術をしたいという娘にどう向き合うのか、美容外科に行ったことで母親自身がどうなっていくのか。また「尻」は、思春期の主人公が同級生に「アヒルのような尻」とからかわれたことで、自分の体を初めて意識するところから始まります。この短編集に収録されている作品はどの物語も、当事者であるはずの自分でも気付くことができない心の変化と、それに巻き込まれていく周囲の人々を描いた作品。自分で気付けないからこそどんどん転落していってしまう、その恐怖を描いています。
○女刑事・音道貴子シリーズ3作目「鎖」(上・下)
男社会である警察官という職業を選んだ貴子が、苦悩しつつも刑事として成長していく姿を描いたシリーズ。貴子は恋愛をしつつも、やはり仕事が第一。今回はそのことで貴子はある大きな事件に巻き込まれてしまいます。まだまだ数少ない、警察内部にいる貴子の仲間を中心に事件が解決されていく様子は、思わず息を呑んでしまう展開。極限の状態に置かれても職務を全うしようとする貴子の強さに感服し、事件解決の糸口となる貴子の一言には胸がスッとする爽快感を覚えます。また警察という、一般人には未知の世界を垣間見ることができるのも、この作品の面白さのひとつ。3作目とはいえ、シリーズを読んだことがない人もぐいぐいと入り込んでいける作品です。
鎖(上) (新潮文庫)

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。