心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

芯の強い女性を描く、桐野夏生さんの魅力

2021/01/20

桐野夏生さんは日本だけでなく国際的にも評価されている作家。代表作の「OUT」はアメリカの文学賞エドガー賞にもノミネートされ、受賞は逃したもののとても高い評価を得ています。1993年に「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞を受賞。これ以前からロマンス小説などを書いていましたが、この作品で本格的なデビューとなりました。
OUT 上下巻セット

桐野夏生さんはハードボイルドな作品を多く手掛け、作品にはかっこいい女性がたくさん登場するのも特徴です。かっこいいというと何となく強い女性をイメージしがちですが、桐野夏生さんの作品に登場する女性は強いだけではありません。人間としての弱い部分があり、女性としての脆い部分も併せ持ち、欲望に負けてしまう部分もある。それがリアリティを感じさせ、多くの人の共感を得ているのだと思います。しかし弱い部分もあるとはいえ登場する女性主人公の生活はかっこよく、自分には絶対に無理だけれども憧れてしまいます。デビュー作の「顔に降りかかる雨」の主人公・村野ミロは、新宿歌舞伎町に住み、父の家業を継いで探偵業を営んでいる。これだけ聞いてもかっこいいと思いませんか?桐野夏生さんはそれを嫌味なく描き、素直に憧れさせてしまうのです。

また桐野夏生さんの作品には、かっこいい女性だけでなく俗に言う「嫌な女」も多く登場します。しかも生半可な嫌さではなく、究極の「嫌な女」。周りの目をまったく気にしない「嫌な女」は、読んでいて苛立ちを通り越して痛快さすら感じさせるほどです。
嫌な女 (光文社文庫)

桐野夏生さんの描く物語はミステリーやサスペンスが多いですが、中には「東京島」や「グロテスク」など、実際に起こった事件をモチーフにして書かれたものもあります。ここに挙げたそのどちらも有名な事件なのでそれについて私も見聞きした経験があるわけですが、その事件を桐野夏生さんがどう捉えたのかを知ることができ、そういう意味でもとても興味深い作品になっています。そしてどの作品にも「かっこいい女性」と「嫌な女」が登場し、作品によってはそれが表裏一体となっているものもあります。この、女性の本質ともいえる部分を描いているところが、桐野夏生さんの作品の最大の魅力です。
東京島 (新潮文庫)

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。