心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

東野圭吾著・白夜行

2021/01/15

東野圭吾さんといえば、言わずと知れた有名人気作家。執筆する作品も幅広く、ミステリーはもちろん、恋愛、ファンタジーなど多岐に渡っています。そんな東野圭吾さんの作品はどれも時間を忘れて入り込んでしまう作品ばかりですが、私が一番夢中になって読んだのが「白夜行」です。何だか夢中になってしまうのが当たり前と言えるほどの作品なので、取り上げるべきか迷いましたがここはあえて。名作「白夜行」の魅力を少しでも伝えられればと思います。

この物語は、約19年間もの年月が描かれています。主人公桐原亮司の父親である質屋の主人が殺されるところから始まり、その犯人を追い続ける刑事と、主人公の幼なじみである西本雪穂という1人の美少女。この3人を軸に物語は進んでいきます。19年にも渡って犯人を追い続けるが、それはあくまで刑事の心証のみで確たる証拠はない。桐原亮司と西本雪穂の周りで起こる証拠のない犯罪の数々、そして2人の深い絆は本物なのか。長い年月を巧みな構成と精密な文章で描く、息つく間もないような作品です。

この作品を読んでつい考えてしまうのは、本当の雪穂は一体どこに「ある」のか。小学生時代の雪穂が本当なのか、結婚相手に見せている雪穂が本当なのか、ひっそりと亮司と会う時の雪穂が本当なのか。何度読んでも答えはわかりません。雪穂は一貫して自分を持っている女性です。しかしそんな中でも少しだけ違う雪穂が時折顔を出して、読んでいる間だけでなく読後しばらく経っても、つい雪穂に翻弄され続けてしまいます。

そして作中に描かれる犯罪の精密さはある意味気分をスカッとさせてくれ、亮司に感情移入する一因になっています。お互いの間でだけ弱みを見せ合う亮司と雪穂。けれど次の瞬間には雪穂は別人のようになり、それに惑わされる亮司。その現実に、読み手である私たちも戸惑いながら何とか本当の雪穂を知りたいと思い、つい読み進めてしまうのです。

白夜行のページ数はなんと800ページ超え。この800ページの中のどこかに本当の雪穂がいるはずなのですが、それは未だに見つけられていません。読んだら誰もが雪穂の魅力に取り憑かれ、ページを繰る手が止められなくなってしまう。白夜行はそんな作品です。

白夜行 (集英社文庫)

ライタープロフィール

李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。