- 心に残る一冊
- お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。
岡嶋二人著・クラインの壺
2021/01/13
「クラインの壺」は、1989年に発表された小説。岡島二人というペンネームのとおり、井上泉さんと徳山諄一さんという2人の作家の共著です。今から31年前の作品ではありますが、個人的に今こそたくさんの人に読んで欲しい作品です。
このお話の軸になってくるのは、ある会社が制作を始めたバーチャルリアリティのアーケードゲーム。そのゲームの名前がクラインの壺といいます。バーチャルリアリティという言葉だけでも、まさに今読むべき作品だと思いませんか?実際に読んでみると、1980年代当時にすでにこの概念が存在していたことに驚かされます。
物語は、主人公の がクラインの壺のモニターとして採用されるところから始まります。そこで出会う同じモニターの女性 とともに日々クラインの壺の中に入り、バーチャルリアリティを体験していきます。最初はあまりのリアルさに驚いて、楽しむ余裕もあった主人公でしたが、徐々にそのリアルさに恐怖や疑念を抱くようになっていき、最終的には…。
リアル過ぎるバーチャルの世界は主人公を混乱させ、どんどん疑心暗鬼になっていく姿。その姿が緻密に描かれ、読み手もあっと驚くほどの世界が待っています。主人公と一緒になって、バーチャルリアリティという普通の人にとっての異世界に疑念を抱き、クラインの壺とは一体何なのかという謎に迫る過程は、読んでいて息を飲む展開ばかり。バーチャルリアリティがVRと呼ばれ身近になってきた今の時代にこそマッチしたテーマです。
最終的に主人公は会社の謎に迫ることに一旦は成功するものの、恐怖に支配されてしまった心は戻ってきません。現実に私たちにも起こり得るこの心の動きは、まさにゲームとしてのクラインの壺さながらのリアルさ。無意識のうちに主人公に感情移入してしまいます。バーチャルリアリティだけでなくAIなどがどんどん進化していく現代社会。クラインの壺は、人間とロボット、現実と仮想の世界の距離が縮まることによって起こるかもしれない恐怖を描いた作品です。
クラインの壷 (講談社文庫)
李内(りうち)さん/女性/年齢:30代/町田市在住/愛知県生まれ。夫と愛犬の3人暮らしのごくごく普通の主婦。仕事はサービス業。趣味は読書、料理、仕事。犬が大好きで愛犬と過ごす時間が何よりの幸せです。