心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

「華族」という本を手にとったとき

2010/07/11

狭苦しい家に育ったせいか、広大な「お屋敷の見取り図(間取りを書いたもの)」を見て、あれこれ妄想にふけるのが好きな子でした。気分は「おひいさま」です。で、中学生のころ、近所の図書館で新書版の『華族』という本を手にとったとき、思わず「ラッキー!」と(当時は、そんな言い方ではなかったけど)。旧華族のメンバー7人と、三笠宮崇仁親王殿下にインタビューしたもので、富沢子爵家、松浦伯爵家、前田侯爵家の見取り図がついていました。

新書版なので、おこづかいで買えない本ではなかったのですが、残念ながらそのころは手に入らず、見取り図のコピーをとって、しばらくながめていたものです。

それからなんと四半世紀。神保町の古書店で見つけたのです。それも、新書になる前のハードカバーで。「1968年発行」の初版の定価は580円。「福田蔵書」なる蔵書印も押されています。古書店では、たしか500円ぐらいでした。

大人になって、記事をじっくり読み返し、その内容に驚きました。ただの「優雅な華族生活の回顧談」ではありません。たとえば木戸幸一氏(旧侯爵・元内大臣)のインタビューでは、アメリカとの開戦前夜から終戦にいたるまでの、近衛文麿、東条英樹、松岡洋右等々、当時のキーパーソンの動向が、天皇の側近であった木戸氏の目と耳を通して語られているのです。戸沢富寿氏(旧子爵家・大学教授)は、明治天皇に殉死した乃木希典夫妻の遺体の目撃談を証言し、「美談」では片づけられない夫人の自害の様子などもうかがえます。

榎本武揚、徳川慶喜、勝海舟、浅野長勲など、幕末のキーパーソンの面影も、「親族」の思い出話として登場します。その他、この本に残された貴重な証言の数々が、浅見雅男氏の『華族誕生』など、華族や昭和史にまつわるさまざまな書籍に引用され、あるいは参考にされていることもわかりました。

明治から昭和にかけての、支配階級の伝記や日記、回顧録、各家の系図などとクロスして読み返すと、「へぇ、そうだったんだぁ」と、今でも意外な歴史秘話に気づかされることがよくあります。お屋敷暮らしにあこがれたミーハー娘が出会ったこの本とは、これからも長くつきあっていきそうです。

華族―明治百年の側面史 (1968年)

ライタープロフィール

オオタクーミンさん/女性/東京在住、もしかして「鉄子」と「歴女」のさきがけだったのかも知れない、ぎりぎりアラフォー世代のライターです。小さいころから、愛読書の1つが時刻表で、プライベートの国内旅行には、たとえ北海道を旅するのにも、飛行機を使うなんてことは、はじめから考えない、まったく日航を応援してない日本人です。