- 人生最高の瞬間
- 今まで生きてきた中で最高だったときはどんなとき?人生最高の瞬間を紹介します。
あこがれのあの人に会ったから、あの人のポートレートがほしかったから
2010/07/25
小学校5年生か6年生ぐらいのころから、「一度でいいから、イギリスに行ってみたいな。ナショナル・ポートレート・ギャラリーに行ってみたいな」というのが、夢でした。ジョセフィン・ティの『時の娘』という小説を読んだのが、きっかけです(ミステリーなので、くわしい説明は避けますが、ポートレート・ギャラリー所蔵のリチャード3世の肖像画が物語の発端です)。
当時は「ヨーロッパ旅行」なんて、一部のお金持ちの人がすることでした。レオナルドの『モナリザ』が来日したとき、「一生に一度のことだから」と、上野の国立博物館の前には5時間待ち、6時間待ちなんて列ができたのと、そう変わらない時代です。
ところが、バブル到来! 夢が夢でなくなりました。学生だって、ヨーロッパに行けるようになったんです。
泰西名画を集めたナショナル・ギャラリーはともかく、ポートレート・ギャラリーのほうに足を運ぶ日本人観光客は、ほとんどいないと思います。いえ、たいていのイギリス人だって、小学校の「課外授業」で出かけるぐらいが、せいぜいのはず。ならんでいるのは、イギリスの歴史上の有名人(原則として、王室メンバー以外は故人だけ)の肖像です。画家のほうは、有名・無名を問いません。
だから有名画家の描いた絵もあれば、「故人の家族」のシロウトが描いた絵もあります。いわゆる「名画」を見るつもりなら、そのご期待には添えません(「風俗史」や「服飾史」の研究にはなりますが)。
だけど、そこにはいたんです。あのリチャード3世が。ずっと会いたかったあの人が。シェークスピアに描かれた、ロンドン塔のいたいけな王子たちを殺したという、600年前の、あの希代の大悪人にして、(私にとっては)カワイイ、魅力的なあの人が。
夢がかなった瞬間でした。思わず、「来たよ」とつぶやきました。
でかくて重いカタログを買い込んで、帰りのヒコーキでも抱いていました。そして、成田の税関で……。ずっしりとかさばるカタログを手荷物にしたのを不審がられて、足止めを食らったのです。「ヤバイものでも、仕込んでるんでるのか」と。
この私がそんな人間に……見えたんでしょう。イギリスとフランスに行った女のコが、ブランドの袋の1つも持たずに、でっかい本1冊。そりゃ「運び屋」かと思うわな。
オオタクーミンさん/女性/東京在住、もしかして「鉄子」と「歴女」のさきがけだったのかも知れない、ぎりぎりアラフォー世代のライターです。小さいころから、愛読書の1つが時刻表で、プライベートの国内旅行には、たとえ北海道を旅するのにも、飛行機を使うなんてことは、はじめから考えない、まったく日航を応援してない日本人です。