感動した話
思い出すとジーンとくる…感動した話を紹介します。

おじいちゃん、若き日のラブレター

2012/09/06

昨年、おじいちゃんがこの世を去り、後を追うようにお婆ちゃんが死に、ペットの犬と猫がそれに続いた。あっという間に、家の中がからっぽになってしまった。二世帯住宅で、生まれた時から一緒に暮らしていたおじいちゃんとおばあちゃんは、両親がいない時に面倒を見てくれたり、遊んでくれたり、第二の両親といってもいい存在だった。

家族全員で、ゆっくりと遺品整理をはじめる。服、アクセサリー、写真、思い出の品々を丁寧に片付けていくと、部屋にはどんどんものがなくなっていった。最初のうちは、なんだか部屋を荒らしているみたいな気がして、ためらいがあったけれど、ああ、もう2人ともこの世にはいないんだな、という実感が、徐々にわいてくる。 ふとおばあちゃんの部屋の片隅に目をやると、きれいにまとめられた大きな箱が一つ置かれていた。なんだろうと開けてみると、そこには、おじいちゃんがおばあちゃんに送った手紙の束が入っていた。研究の仕事をしていて、全国あちこちを回っていたおじいちゃんが、おばあちゃんに気を遣って送った手紙だ。

「元気にしてるか。こっちは暑いぞ。」「女が言い寄ってきたりすることもある。でも僕にはきみが一番だ。」「早く会いたい。」 愛の言葉の数々。そして、手紙の最後には必ず「君にキスを送るよ」と書いてあった。 最後には痴呆も入り、弱々しく介護されていたおじいちゃんとおばあちゃんの、輝いていた時代が目に浮かぶ。すごく新鮮。こんなに初々しい2人だったなんて、と、思わず笑ってしまった。

手紙の束の中に、「取扱注意」と赤文字で描かれた大きめの封筒があった。不思議に思って開けてみると・・・なんと、おじいちゃんがペンで描いた、おばあちゃんの絵。しかも、裸体だった。線一本で描かれたおばあちゃんの姿は、本当に、とってもきれいで。しばらく言葉を失った。

2人で一緒に生きていくって、こんなに素敵なんだことなんだなあ、と、思わず涙がこぼれた。

ライタープロフィール

中花香さん/女性/年齢:20代/鎌倉出身/会社員/海外旅行、バイオリン演奏、ライブなどが趣味。好きなものは映像、絵本、仏像などです。