感動した話
思い出すとジーンとくる…感動した話を紹介します。

まるでドラマのよう〜3年2組39人40脚〜

2012/03/04

学生時の青春は往々にして美化されやすいものです。しかしわたくしは美化もなにも学生時のことがあまり記憶にないので語れる事柄は少ないです。なので今回はわたくしが中学3年の体育祭のときに体験した、わたくし自身が感動したこんなお話を語らせていただきます。

舞台は地元某H中学校、時はわたくしが中学3年の体育祭のときのことです。あまり天候に恵まれなかった本番当日、小雨の降る中で盛大に行われた体育祭。昼休みを終え、応援合戦を無事に迎え、各組が全力を出し切ったあとにそのときは来ました。全部で6組ある我が中学3年の学年ひとクラスごとに緊張と気合いとが入り混じり、みな本気を出すことだけを意識しそれに臨みます。クラス対抗39人40脚はこの学校の目玉ともいえる種目。特に3年生は最後の体育祭となるため気合いの入り方が違いました。わたくしは3年2組の白組でした。緊張の面持ちはどこか他のクラスとは違います。なぜならば、わたくしたちのクラスは団結が薄く、練習では一度たりと完走を果たしたことがなかったのです。迎えた本番では他のクラスからは全く相手にもされず、最弱2組と見下されておりました。それもそうでしょうね。練習で一度も完走できないようなクラスが、本番で完走できるなどそんなドラマティックな出来事は奇跡でも起きなきゃ有り得ない話です。

走る順番はあらかじめ体育祭が始まったときに公平性に富むくじ引きにより決まっていました。クラス対抗による種目はこれが最後、総合得点では2組の白組は現在2位です。他の種目では運動が得意な生徒たちの活躍でなんとか得点を得られていたのですね。この39人40脚は優勝すると5点が加算されます。一位の青組を追い越す最大のチャンスですが、前述の通りわたくしたちのクラスは一度も完走したことがありません。しかも、走る順番はトリ。最後から2番目です。他のクラスが完走していく様子をまざまざと見せ付けられながら待機する時間はまさに拷問のようです。

いよいよわたくしたちの番が来ます。この種目で優勝するには完走以外にも、完走タイムが必要となります。50メートルの距離を15秒以内に走り切らなければ、優勝は無理です。足首に固定紐を装着しながら、学級委員長が叫びました。「とにかく走りきろう!」その言葉に、すでに涙を浮かべる女子生徒もいました。

時間がきました。みな、隣の肩を組み、50メートルという長い先のゴールテープを見つめます。「位置について、よーい……」パーン!とスタートの合図が鳴り響きました。あとはもう無我夢中でした。走る速度、呼吸、掛け声――すべてが耳から消え去り、周囲の景色も消えました。雨でぬかるんだグラウンドに跳ねる泥、また降り出した小雨が額から滴ります。「パーン!」と競技用ピストルの音がして、はっとすると、みんな喜び飛び跳ねました。泥も雨もみんな気にせず歓喜に沸いていました。そうです。わたくしたちは完走したのでした。泥まみれの足元に、雨ですっかり濡れた体操着が気持ち悪かったですが、心は晴れ晴れとして爽快でした。50メートルはあっという間に感じました。あそこからの距離、わたくしたちクラス一同は心が一つになったのだと実感します。普段喋らないクラスメイトともハイタッチしたりして、最高の時間を過ごします。そして、興奮が冷めないうちにまた新たな喜びがわたくしたちを沸かせます。なんと最速タイムで優勝を果たしたのでした。練習で一度も完走できたことのなかった最弱2組が、優勝してしまったのです。男子生徒もわっと泣き出す子がいました。まさにドラマのようなひとときでした。

わたくしはまだ人生の半分も生きていませんが、あれほど感動した出来事は他に思い出せません。ドラマのような感動に湧いたあのとき、ああ、このクラスで良かったと心の底から感じました。いまでもあのときのことを考えると、不思議と活力が沸いてきます。わたくしの人生の中で最も『努力が実った瞬間』であり、『大勢とやり遂げられた』と実感した出来事となりました。学生時代、なにか一つでも心の底からやり遂げたと感じられた出来事、皆さんも今一度思い出してみてください。願わくば、その思い出をきっかけにまた初心を省みてはいかがでしょう。かつての自分の夢や願望を、今後の目標にできるかもしれませんからね。

ライタープロフィール

南形えるさん/女性/年齢:20代/愛知県在住/文章執筆歴8年目突破。人に読んでいただくこと前提の『作品』の書き方を日々特訓&勉強中。新年早々本業を捜索中なう。