感動した話
思い出すとジーンとくる…感動した話を紹介します。

忘れられない味

2012/02/17

数年前、親戚の工場が忙しさで大変で、その手伝いに行く為、7年ほど勤めあげた職場を辞めることになりました。会社からすれば、「私情による退職」なわけでありますしこちらも大変忙しかったわけです。笑顔で送り出してもらえるわけもなく、身内だけでの送別会を簡単に済ませ最終就業日にロッカー等を片付けていると、今まで仕事以外の話をほとんどしたことなかった部下だったブラジルの社員Jさんが「ヤメルノ?」「シラナカッタヨ」と話しかけてきてくれました。

もう何度も会う人会う人に、辞めることになった成り行きを十数分かけて話してた私は、もう同じ会話をするのに疲れておりその時も、「うんうん」「元気でね」とだけ簡単に流し、最後の会社での食事になる昼休みのチャイムと共にその場を離れました。

ちょっと肩身の狭い食事を済まし、午後の引継ぎ作業をしているとそのJさんが体調不良で早退したことを知りました。(あー、最終日に早退とか有り得ないよな)と思いながら、ほとんど仕事のなかった私はJさんの抜けた穴埋め作業の手伝いに入りました。17:30の定時と共に上司に最後の挨拶「お疲れ様でした」を言った後駐車場までテクテク歩いていくと、なんとJさんが私の車のそばで待っていたのです。

「コレ、オイシイヨ」と手渡されたのはタッパに入ったおいしそうなスペアリブでした。呆けてる私に向かって続けてJさんは「ワタシ、イチバントクイ!」と屈託のない笑顔と軽く潤んだ目で「アリガトウネ。ジャ!」と言い残し、帰っていきました。

あまり外国の方との接触が得意でなかった私は帰宅したあとそのスペアリブを食べながら、どうしてもっとやさしく接しなかったのだろう。どうしてもっと仲良くしておかなかったのだろう。最後に声をかけてくれた時、どうしてもっとちゃんと話しなかったのだろうと本当に後悔しました。

一期一会。人との出会いは大事にしないといけない思いで今を過ごしています。まだまだ外国の方の就労条件が厳しかった頃の話で、給料も日本人に比べ半分程度で更に、就労時間もかなり長い悪条件の中、このスペアリブはJさんのできる限りの精一杯の心使いだったはずです。更に彼はほとんど皆勤で、就業態度もよく、私の知ってる限り突発早退はしたことありませんでした。

後に連絡を取ろうとしましたが、就労ビザの関係で私が退職したあと1ヶ月足らずで一旦ブラジルに帰省しているとのことでした。残念ながら、彼との連絡は取れず仕舞いで今に至ります。バラエティ番組がただただ流れてるテレビを見ながら食べたスペアリブの味は何年も経った今でも忘れられない味になりました。

ライタープロフィール

MASAKIさん/男性/年齢:40代/長野県在住/移住族であり、本州では住んだ地方はないほどの転勤&転職族 自己紹介 物書きが好きで、言葉や文字で人を笑わせるのが大好きチャットでも楽しいムードメーカーでありたいと思います。