- 人生最高の瞬間
- 今まで生きてきた中で最高だったときはどんなとき?人生最高の瞬間を紹介します。
山勘でつかんだ大学卒業という栄光
2011/09/15
大学でテストがありました。たった1つの設問に対して、A4用紙にぎっしりと回答を記述するのです。この単位を取ることができれば、私は卒業です。その試験は、それはそれは大切な試験なのでした。
問題の10問はすでに発表されていて、やる気さえあれば誰もが合格できる筈でした。しかし簡単に10問といっても、その回答を暗記することは非常に大変でした。
十分に理解できていれば自分の言葉で記述できるのでしょうが、丸暗記するとなると1、2問が限界でした。しかも私に与えられている時間は、たったの1日。といってもそれは全て私の責任で、今まで何もしないで遊びほうけていた結果なのでした。
(どうするべきだろう?)明け方の4時。私はアパートの一室で思案していました。自分の能力は、自分が一番よく知っています。
1問目の回答をなんとか丸暗記して2問目に移ると、なんと1問目の回答を忘れてしまうのです。これではいけないと、私はこの1年間に行われたT教授のテスト問題を机の引き出しから取り出しました。
4月、5月、6月と順次見ていくと、何となく法則のようなものがあることがわかりました。それは潔癖性の教授の癖のようなもので、分析をすればするほど確信に変わっていきました。(もう、これしかない)私はそう心に決めて、10問中の1問の回答だけを暗記しました。
試験会場は、ざわめいていました。どの問題がでるのだろうかと、誰もが噂し合っていました。最後のあがきで、まだ教科書のページをめくっている者。さっさと諦めたのか、それとも自信満々なのか、ぼんやりと宙を見つめている者などが、入り乱れていました。
T教授が教室に入ってきました。教壇に立つと、おもむろに会場内を見回しました。これから教授は、チョークで黒板に問題の番号を書くのです。そしてその番号次第で、私の人生は決まってしまう、といっても過言ではありませんでした。
私は教授が、4番の問題を出すと、ふんでいました。T教授はチョークを持って、黒板に近づきました。「試験問題は4番」といって、黒板に大きな4を書きました。それは私にとって、人生最高の瞬間でした。
キイチロウ/男性/50代/福井県在住/ごく普通の仕事をしていて、ごく普通の考え方をする、ごく普通の趣味を持った、ごく普通の外見の人間です。ただ他の人よりも少しだけ、人間ウォッチングに優れていると自分では思っています。