人生最高の瞬間
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熊本一、字のうまい男?

2012/01/23

実家に帰ると、昔姉の使っていたピアノの上に、仰々しいトロフィーが二つ飾ってあります。名前の入っている部分はそれぞれ赤と青、形は同じ。私と姉、姉弟で二年連続とった、書道のトロフィーです。"天賞"と銘打たれたトロフィー、県内で一位という名誉あるトロフィーです。ただ、ええ、ただ…。

その賞をとったのは私が小学三年生の頃。姉がとったのは彼女が小学四年生のとき。当時、姉弟そろって、近所の書道教室に通っていたんです。小学校を引退した、元教頭先生がやっていた教室で、なかなか礼儀作法など厳しかったんですが、それでも楽しく通っていました。弟の目から見て、姉の字はとてもきれいで、正直「うまいな」と思っていました。一方、私の字はといえば、まあまあ佳作程度かな、と。下手じゃないけど、特別にうまいわけじゃない。そんな感じでしょうか。なので、前年に姉が書道でトロフィーもらったよという話を聞いたときは「やっぱすげぇ」と思っていたわけです。

それから一年、また県主催の展覧会の時期になり、小学三年生の私は展覧会のために、初めて本格的に自分の作品を書くことになりました。お題は、ひらがなで「ともだち」。はっきりと覚えています。出来上がった書は、まぁこんなものかな、といった感じ。

そんなこんなで日が経ち、ある時、書道教室で「天賞」とったよ、と先生から言われました。「熊本県の小学生で一番だ」との形容詞つきで。実感わかなかったんですけどね、おめかしして、展覧会に行き、一番目立つ所に自分の作品を見つけた時は、子ども心に有頂天、まさに人生が輝いた瞬間です。

ただ、ええただなんです。よ〜く見てみると、確かに名前は自分の書いた名前なんですが、どうも「ともだち」が自分の字じゃないように思える。というか、周りの優秀作品なんかと比べてけた外れにうまい。ん?あぁ〜!これ先生の字だ!そう、先生の字だったんです。おそらく、先生が後ろから手を持ってくれて一緒に練習用で書いた書、それが何かの手違いで送られていたんです。そりゃ小学生レベルなら県内で一位になっちゃうよ…。

トロフィーは、今でも実家で虚しい輝きを放ってます、姉の本物の隣で…。

ライタープロフィール

横浜ホームズさん/男性/年齢:30代/横浜在住、福岡から横浜に来てはや10数年。もはや博多っ子と浜っ子の境を見失う30男。美しいものが好き。だけど醜いものはもっと好き。人生、味がある方がいいよね。