- 人生最高の瞬間
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落とした財布と名刺入れ、拾ってくれたのはヤ○ザさん
2012/01/27
学校を卒業し、営業職として勤め始めたボクは、まだまだ営業成績を出せずに、一人モンモンとした日々を過ごしておりました。大手複写機メーカー100%出資の販売会社に入ったものの、研修を経て現場へと出てみると、そこはまさに修羅場の世界でした。もともと人と話をすることの苦手だったボクにしてみれば、研修で仲間内でやるロールプレイングとは打って変わって厳しいの一言。同期の仲間たちが次々に実績を上げていくのに対して、相も変わらず低迷の一途をたどっていたボクだったのでした。
そんなある日、ぼくは電話ボックスの電話機の上に、名刺入れと財布とをそのまま置き忘れてきてしまったことがあったのです。今の人たちは小さな子どもたちでさえ、ケータイを持ち歩いておりますから、電話ボックスといっても、あまりピンとこない人もいるかもしれません。財布には1万円札と千円札とがそれぞれ数枚と、あと小銭でしたが、何枚かのカードや免許証まで入れてあったので、ショックは大きかったのです。その日の夕方頃になって、先輩から飲みに行こうと誘われて、はじめて財布や名刺入れがないことに気づいたボク。
すぐに、電話ボックスだと思いつき、先輩に事情を話しすっ飛んで行ったものの、やはりありませんでした。ところが、その翌日、警察に届けようと思っていた矢先、ボク宛てとのことで、会社事務所に強面を思わせる声をした男性から電話があったのです。すぐに電話を代わると、その向こうではドスの聞いた声で、「○○さんか、あんたの財布と名刺入れ、拾ったから取りに来いよ」とのこと。場所を聞くと、車の免許証も財布に入れてあったボクは、先輩に事情を話し、すぐに先輩の営業車で男性から指定された場所へと向かったのでした。
男性から指定された場所とは、横浜の繁華街の裏通りに面した××○○事務所前。一目見て、ヤ○ザさん事務所というのが分かりました。見ると、一人の男性がその事務所前でタバコをふかしながら立っております。先輩は車で待っているとのことで、ボクは一人で恐る恐る、その男性に近づいていきました。ドス黒い顔にパンチパーマ、尖った目つき、顔には何かで引っ掻いたような傷が・・。もろにヤ○ザさん関係の方。どんなことになるのかと暗澹たる気持ちでいると、その男性がボクに気づき、「○○さんか?」と一言。「はい、このたびは・・」と、ボクが言いかけると、男性はボクの財布と名入れを差し出し、「ほらっ」と言って渡してくれたのでした。
ボクは急いで財布の中からお札を何枚か取り出して、「あの・・、少しですが謝礼を・・」と差し出しました。すると、そのヤ○ザの男性は、「いらねぇよ。いいから、気ぃ使うなよ」と言うと、事務所のガラス戸を引いて中へと入っていってしまいました。しばらくポカンと、ガラス戸の前に佇んでいたボク。すると、中からご年配のヤ○ザさんの、「おおー、取りきたか、おめー、いいことしたな」との声。その声に応えて、ボクに財布と名刺入れを渡してくれた男性が、「いやー、てーしたことじゃないすよー」と、照れたような笑い声。
ガラス戸越しにボクを見つけた年配のヤ○ザさんが出てきて、「アンちゃん、良かったな。今度から気を付けなよ」と、ボクに言うと、ボクを追い払うように右手を振りながら、「アンちゃんみたいなのがウロウロする場所じゃねえよ、さっさと帰りな」とのこと。ぺこりぺこりと何度も頭を下げ、車に戻ると、待っていた先輩がボクに向かって一言、「おまえ、なかなかいい度胸してるな」とのことでした。でも、その時のボクの心は、怖いどころか、幸せいっぱいだったのです。
ガクドウさん/男性/年齢:50代/横浜市在住、サラリーマン時代から、文章を書く仕事に携わっていた関係から、現在はライターを職とするようになりました。人からちょっと変っていると言われますが、その分、ちょっと違った角度から物を書くことが出来ると思っております。よろしくお願いします。/ブログ