心に残る一冊
お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。

教育の書、ルソーのエミール

2012/04/01

良書に親しめというのは、古今東西を問わず、人が成し得る最善の選択であると思っているのです。面白いもので、人という生き物は、どのようにでも変化し得るもので、その意味では良くも悪くも、どうにでも変わることが出来てしまうからです。そして、人が変わるというのは、その人が、今、見たり聞いたり、接している対象に合わせて変わっていくという特徴があるのです。次元の高いもの、崇高なもの、精神性の優れたもの、そんな書物に常に接している人というのは、やはり人として優れた存在へと、自らを変えていくでしょうし、一方、その逆であれば、限りなく人を堕落させもすると思われるのです。

さて、そんな良書と言えるものの一つに、フランスのルソーが著した、「エミール」があります。ルソーというと、「自然に帰れ!」との言葉で有名ですが、実は、ルソーはそんな言葉は吐いていないという説もあり、論議の分かれるところでありましょう。ただ、私が感じるところのルソーの真意は、実は自然・・云々などではなく、すべての人は教育されることによって、今よりはるかに高い精神性を勝ち取ることのできる存在なのだ、ということではないかと思っているのです。

一般的に教育といった場合、小中高を経て大学へと進学し、いわゆる、インテリを作ることと思っておいでの方も多いのではないでしょうか。しかし、ルソーに言わせると必ずしもそうではなく、エミールによると、「最も教育された者」とは、すなわち「人生の良いこと悪いことにもっともよく耐えられる者」のことだとしております。ルソーのこの言葉に従えば、いかに高い学歴があり、また知識も豊富なインテリであったとしても、ただそれを持って、教育を受けた者とは結論づけていないのです。

いわゆる、インテリと呼ばれる人の中にも、それをもって鼻高々と傲慢となり、何事にも、「よく耐える」という生きる姿勢を失えば、真に「教育された者」とは呼ばないということなのです。そして、そんなルソーが言うところの、教育とは、「訓練をさせること」としております。良いことがあっても悪いことが起こっても、淡々と自らの成すべきことを成す。日々怠らずに努力を繰り返す、そして、その中で自らを訓練するということ、これがルソーの言うところの、「最も教育された者」なのだということです。

エミール〈上〉 (岩波文庫)
エミール〈中〉 (岩波文庫)
エミール〈下〉 (岩波文庫青 622-3 )

ライタープロフィール

ガクドウさん/男性/年齢:50代/横浜市在住、サラリーマン時代から、文章を書く仕事に携わっていた関係から、現在はライターを職とするようになりました。人からちょっと変っていると言われますが、その分、ちょっと違った角度から物を書くことが出来ると思っております。よろしくお願いします。/ブログ