人生最悪の瞬間
今まで生きてきた中で最悪だったときはどんなとき?人生最悪の瞬間を紹介します。

車は人が乗ってから、動かすものでした

2012/01/22

冬の寒い日でした。夕方ごろから雲行きが怪しくなり、チラリホラリと雪が舞い始めてきました。まだまだ会社では新人の域の出なかったころのボクとしては、会社が終わる5時に退社などというものが出来るわけもなく、遅くまで事務所に一人残って、見積もりやら積算などといった書類の整理に追われておりました。夜も9時を回り、仕事もひと段落ついたボクは、ようやく帰ることにしました。事務所から出て会社の駐車場へと足を運び、自慢の車に乗り込みキーを差し込み右へと回します。通常ならば、ここでエンジンがかかり、うなり声を発するところ。

ところが、車はなんの反応も示さず、目の前の計器類の明かりもなんとなく弱々しい。これはバッテリー切れだなと思いついたボクは、かつて友人がこんな時は、車を坂道まで運びギアをローに入れたまま転がすとエンジンがかかると聞いていたことを思い出し、さっそくやってみることにしたのです。いつしか雪も大粒となって、うっすらとですが道も白くなり始めておりました。善は急げとばかりに、ギアをニュートラルにしてなんとか駐車場から車を運び出し、道路で溶けた雪に靴を濡らしながら、近くの坂道までエイヤコラとばかりに押していきました。

こんな時、横浜という街は、坂道が多いので助かります。車を押して運ぶこと約20分、ようやく下り坂へとさしかかるところまで、車を運ぶことに成功しました。ギアをニュートラルにしたまま、車をさらに坂道へと押し出し、転がり出したところを素早く車に乗り込み、ハンドルと取りながらギアをローへと入れる、とまぁ、そんなはずだったのです。ところが、車が坂道を転がり出した途端、はずみでドアがバタンと閉じてしまい、車はボクを置いたまま、勝手に坂道を下って行ってしまったのです。

主人を置き去りにしたまま、坂道を下り行くマイカー。半ばシャーベット状になった道に足を取られながらも、慌ててその車を追いかけるボク。車は途中、電柱にわき腹を擦りながら向きを変え、そのまま道を外れて崖下へと転がり落ちていき、あえなく畑の脇の所で仰向けとなっておりました。しばらく、ポカンとわが車の末路を見守っていたボクに、いよいよ大粒となった雪が降り注いでおりました。道の両側が畑だったからまだ良かったものの、これがもし民家でもあったらエライことになっていたところでした。もちろん、それから数日間、ボクは暗―い気持ちで日々を過ごしておりました。

ライタープロフィール

ガクドウさん/男性/年齢:50代/横浜市在住、サラリーマン時代から、文章を書く仕事に携わっていた関係から、現在はライターを職とするようになりました。人からちょっと変っていると言われますが、その分、ちょっと違った角度から物を書くことが出来ると思っております。よろしくお願いします。/ブログ