- 心に残る一冊
- お気に入りの世界観、人生を変えた一冊、何度も読み返してしまう本を紹介します。
生かされて。
2010/08/05
わたしには活字中毒的なところがあり、字を見ると読まずにいられない傾向にあります。ジャンルも分け隔てなく、流行の小説から推理小説、恋愛小説、エッセイ、何だかわからない物も、あれば読んでしまいます。ただ、流し読みが多く、その場では感動したり、涙したり、大笑いしても記憶に残っていないことが多いようです。
そんな中で記憶に焼きつきやすいのはノンフィクションのようです。実際にあった話はやはり重みがあるんですね。いつかは忘れても、簡単には素通りしにくいようです。心に残る一冊と考えて、ふと思い出したのが、「生かされて。」というノンフィクションです。これはルワンダの大虐殺の生き残りの証言をもとに書かれた実話です。
ルワンダで大虐殺があったなんてことをわたしはまったく知りませんでした。まず、ルワンダがどこか知らなかったのです。ただ、その響きからきっとアフリカの土地だとは想像できました。そこで、民族紛争があり同じ国民同士が争い、殺し合いを繰り広げたのです。人々の精神は狂い、次第に殺害を快感だと感じるようにもなっていきました。この物語の主人公は女性ですが、その人はターゲットにされた側の民族の出身でした。命からがら逃げ、ほか7人の女性と一緒に、3カ月もの間教会内のせまいトイレの中で息をひそめて隠れていたのです。何とか逃げ延びた後、彼女は大切な人を皆殺しにした張本人を「許す」ということを実行した・・・という話です。
内容の壮絶さもさることながら、この話が心に残ったのは1994年に起きたことだったからなのです。たとえば世界大戦くらいの昔のことであれば、あまりピンとこなかったでしょう。いたるところで虐殺が日常的に行われていたと聞いてもそれほど驚かないかもしれません。けれど、ほんのこの間、わたしが大学生だった時分の話なのです。浮かれて毎日を暮らしていた時に、1畳程度のトイレで狂気に包まれ声も出せずに、じっと過ごしていたということに驚愕し、自分のおかれた幸福さにつくづく感謝したのです。この本は、わたしがいかに恵まれていることを実感させてくれた一冊です。
生かされて。
山下なおこさん/女性/年齢:30代/ニュージーランド滞在(16年以上)、自然と素朴な料理が好きな女性です。