人生最高の瞬間
今まで生きてきた中で最高だったときはどんなとき?人生最高の瞬間を紹介します。

作家になる夢に限りなく近づいた、人生最高の2ヶ月間

2014/01/29

人生最高の2ヶ月間は、1本の電話から始まりました。

その日は平日でしたが仕事が休みで、朝の10時過ぎまで寝ていました。枕元に置いていた携帯電話がなって、ディスプレイには知らない番号が。なんだろう……と寝ぼけ半分で電話に出ると、「ご応募いただいた小説作品が、最終選考に残りました」と電話の相手。

3ヶ月ほど前にある文学賞に応募した小説が、最終選考の4作品に残ったのです。電話の相手は東京の出版社の編集者さんでした。嬉しさを通り越してびっくりしているわたしに、編集者さんは「これから1ヶ月で作品の書き直しをしていただきます。ついては一度東京にお越しいただいて、打ち合わせを」とてきぱき告げ、電話は終わりました。

翌週東京の出版社まで打ち合わせに行き、書き直しを担当してくれる編集者さんと顔合わせして、書き直しがスタートしました。問題のある部分を指摘してもらって書き直し、それを読んだ編集者さんがコメントをくれ、コメントに基づいてまた書き直す、の繰り返し。

仕事が終わってからと、週末しか時間がとれない中での作業だったので、体力的にはかなり大変でした。でも編集者さんとやりとりしながら小説を書くという擬似作家体験は、夢見ていたとおり貴重で楽しいものでした。

いよいよ結果発表!
無事書き直しが終わり、いよいよ受賞結果の発表日。仕事が終わったあと、いたたまれない気持ちで、行きつけの居酒屋で一人で結果の電話を待っていました。夜8時前にようやく電話がなり、おそるおそる出ると、「今回は他の方が受賞されました」という知らせ……。

それはもうガッカリしましたが、人生最高の時はここで終わりませんでした。審査員のひとりで、直木賞作家の三浦しをんさんが、わたしの作品を最後まで強く推してくれていたらしいのです。受賞者ではないけれど授賞パーティに出て、三浦さんと是非お話してください、という提案があったのです。

授賞パーティでいただいた、三浦しをんさんからの素敵な言葉
1ヶ月後、東京都心のパーティ会場で行われた授賞式に参加で、まず芥川賞作家の津村記久子さんにお会いして、お話することができました。「おじさんが審査員に多かったので、不利ですよね」と慰めてもらいました。それから、担当編集者さんが三浦しをんさんに引き合わせてくれました。どういうふうに物語を構成していくのか、人物造形はどういうふうにするかなど、小説についてのアドバイスをたくさんいただきました。

別れ際、一緒に乗っていたエレベーターから降りたところで、「またどこかで絶対会えます、あなたが書いている限り」と温かいお言葉をいただきました。現在はもう小説は書いていませんが、こうしてライター業をしていれば、またお会いできることがあるのではないか、と心のどこかで思っています。

ライタープロフィール

そま ちひろさん/女性/年齢:30代/中南米(2013年現在)/フリーライターおよび翻訳業。お気に入りの国はインド、住んでみたい国はスペイン、そして現在は南米を縦横断中、という矛盾だらけの人生を満喫しています。著作に「ヘラクレイトスの水」(大宰治賞2009収録)。